今回の配達先はサッカー強豪国オランダのデンボス。プロサッカーチーム2部リーグ「FCデンボス」でメディカルトレーナーを務める中田貴央さん(25)と、東京に住む父・博行さん(52)、母・誉志子さん(52)をつなぐ。プロサッカー選手の夢に破れ、見つけたメディカルトレーナーの道。両親は「大学で理学療法士の資格を取ると、すぐにオランダへ行ってしまった。苦労も多いと思うが、夢があるのはいいことだと思う」と、日本から応援している。
貴央さんは「FCデンボス」のメディカルトレーナーを務めるようになって2年目。デンボスのホームスタジアムにある施術専用ルームには、毎日、身体に不安を抱える選手たちが、貴央さんの腕を頼ってやってくる。貴央さんは、ケガで故障した箇所をマッサージ治療でほぐして早い回復を促すなど、練習までの2,3時間の間に、多ければ10人もの選手のケアをする。助けを必要としている選手全員を、ベストな状態でフィールドに送り出さなければならず、休む間はない。そして、試合ではベンチに入って選手たちの動きを見守り、彼らがケガをした際には、プレー続行可能か、選手交代するのか、素早く判断する。肉体的なケアだけでなく、ケガで精神的ダメージを受けた選手に寄り添い、冷静になってケガの状況や、これからどうしていくか伝えるのも、メディカルトレーナーの大切な役目だ。
常に選手と行動を共にし、突発的なケガの対応から、日々の体調管理まで、選手たちをきめ細かなケアでバックアップし、チームから大きな信頼を寄せられている貴央さん。選手の体を毎日触っているからこそ知ることができる彼の情報を元に、その日試合に出場させる選手を監督に進言するなど戦術にも関わり、チームへの影響も大きい。
小学生のころからプロのサッカー選手に憧れていた貴央さんは、中学では選抜チームにも選ばれたが、活躍できずに実力不足を痛感。それでも“サッカーに関わっていきたい”と、目指したのがメディカルトレーナーの道だった。大学で理学療法士の資格を取得し、片道切符を握りしめてオランダへ。必死で語学を勉強し、何のコネもないチームに片っ端から自分を売り込んだ結果、研修生として受け入れてくれたのが現在のチームだった。「当時の自分はバカだったのかもしれないですけど、“できる”と思っていました。成功する確信もないけど、失敗するとも限らない。根拠なき自信を信じていました」と貴央さん。オランダ行きを決めた当初は、周囲から“無謀な挑戦”と言われたが、「両親は“やりたいならやってみればいい”と、すごくサポートしてくれた。やりたいことを全力で応援してくれた事には感謝している」という。
真摯に選手を思いやる気持ちと、熱い情熱を武器に走り続け、見事に夢を叶えた貴央さんへ、日本の両親から届けられたのは500円玉。小学生の頃、お手伝いをするごとに50円ずつおこずかいをもらっていた貴央さんが、それを貯めて、両親に「生活費に使ってね」と渡したのがこの500円玉だった。母の手紙には「貴央の優しい気持ちをいつまでも持ち続けてほしいので、あの時に貰った500円玉を送ります。そういう貴央の人柄が、今後、海外で仕事をしていく上で、良い方向に導いてくれると思う」と綴られていた。貴央さんは涙を浮かべ、「当時、母に“なんでこのお金を使わないの?”と聞いたら、“この500円はほかの500円と違うんだよ”と言われた。昔から人に喜んでもらうことが自分の喜びにつながっていた。そういう意味では、自分に合った職業に就くことができたのかなと思う」と、語るのだった。