今回の配達先はカナダ・モントリオール。この街で公演中のサーカス「EMPIRE(エンパイア)」に出演しているサーカスパフォーマーの吉川泰昭さん(36)と、奈良県に住む父・萬太郎さん(75)と、母・おあきさん(74)をつなぐ。世界的に話題のサーカスで活躍する泰昭さんだが、ここに至るまでには苦労も多く、両親は「生業として成り立つとは思っていなかった」と振り返る。
2012年にニューヨークで生まれたサーカス「EMPIRE」。ステージの直径わずか3m、客席から1mという超至近距離で繰り広げられる大迫力のパフォーマンスが瞬く間に話題となり、これまで世界13都市で公演が行われてきた。泰昭さんが披露するのは、直径2mほどある大きな鉄の輪の「シルホイール」や、日本ではラートと呼ばれる「ジャーマンホイール」を使ったパフォーマンス。遠心力を利用し、ステージギリギリのところでその輪を自在に操り、さまざまな技を繰り出して観客を魅了する。泰昭さんは「見せ方は年々積み重ねていくもので、パフォーマーとしては今が全盛期だと思っている。ただ、肉体的な全盛期は過ぎた。今は年齢との戦いでもある」と打ち明ける。
大学時代にラートと出会い、一目で魅了され、その世界に飛び込んだ泰昭さん。練習に明け暮れる日々を続け、ついには世界選手権3位まで上り詰めた。その後、ラートパフォーマーを目指すが、現実は甘くなかった。「パフォーマーをしながら塾の先生や家庭教師をして生活をしていた。“大学まで出て自分は何をしているのか…”と思う事もあったが、自分の芯にあったのは、“人に楽しんでもらうことを仕事にしなければいけない”ということだった」。そして2004年、崖っぷちにいた泰昭さんに舞い込んだのが、当時ブームになっていたショー「マッスルミュージカル」からのオファーだった。その時、両親は「お前の一番のファンであり続けるから、自分の思いどおりに頑張れ」と送り出してくれたという。
現在は妻の瑞紀さん(33)と、1歳6か月になる娘と暮らす泰昭さん。ダンサーをしていた瑞紀さんとはマッスルミュージカルで出会った。パフォーマーの仕事は安定してないうえ、結婚を決めた時、泰昭さんは単身ラスベガスへ渡って武者修行中で無職だった。日本で結婚して1週間後に再びラスベガスに戻り、そこで「EMPIRE」のプロデューサーにスカウトされたのだ。舞台に立つためには、狭いステージに合わせた特注のホイールが必要だったが、当時、泰昭さんにはお金がなかった。不安げに瑞紀さんに相談すると、瑞樹さんは大爆笑で「次に言う時はしっかり笑って言いや」と、ポンとお金を出してくれたという。瑞紀さんは「夫は成功する人だと思っている。ダメでも私が頑張って夫を食べさせます(笑)」と逞しい。
肉体の衰えを感じながらも、「まだ5年以上はパフォーマーとして活動できると思っている。それと並行して、次の世代のために、シルホイールの練習方法をしっかり確立させていきたい」と、その研究にも余念がない泰昭さん。さらに「日本人として、日本にいる素晴らしいパフォーマーたちと一緒に大きなショーを作っていきたい」と、プロデューサーを目指し、さらなる高みに挑む。
そんな泰昭さんに、日本の両親から届けられたのは、子供の頃大好きだった猫のぬいぐるみ。実は、母が同じものを探したところ、すでに廃盤になっていたという。そこで、新しい家族が増えた泰昭さんのため、母が写真と記憶を頼りに、1週間かけて手作りしたのだ。母のお手製と聞いて驚く泰昭さんは、「うれしいです」と涙。「子供のころを思い出しますね。僕も父親になった。家族みんなで毎日笑って楽しく暮らしていくことが、一番の親孝行になると思っています」と語り、母に感謝するのだった。