今回のお届け先はインドネシアのバリ島。かばん店のオーナー兼デザイナーとして奮闘する古谷尚美さん(41)と、奈良県に住む父・武さん(75)、母・美也子さん(70)をつなぐ。20代半ばでバリ島へ渡った尚美さん。両親は「3人いる娘の一番末っ子なので、この子とは何年一緒にいられるのか…という思いでずっと過ごしていた。だから、すごく寂しかった」と、当時の思いを語る。
尚美さんの店があるのはバリ島・ウブド。今年で15年目を迎える尚美さんのかばんブランド「SiSi」は、すべてのデザインを彼女が手掛けている。素材となる布はバティックと呼ばれるインドネシアの伝統的なろうけつ染め。尚美さんは自分で布の絵柄をデザインし、特注している。伝統的な風合いを残しながらも、モダンな可愛らしさを感じさせる尚美さんのかばんは、多くの旅行雑誌にも取り上げられるほど人気だ。3年前には店の裏手にカフェを作り、今では隠れ家的なお店として観光客も多く訪れる。
20代半ばで婚約が破談になり、精神的に追い込まれていた尚美さん。ふと思い出したのが、かつて姉2人と訪れたバリの美しい風景だったという。貯金100万円を握りしめ、何の当てもなくやってきたバリ島。しばらくはのんびり過ごしたが、やがてお金も底をつき、不安に駆られるように。それでも彼女をこの島に留まらせたのは、バリの人々の大らかさだったという。そんな時、当時住んでいた家の大家さんに「空いている土地があるので何かやったら?」と勧められ、10坪ほどの小さな露店で始めたのが「SiSi」だった。
現在は夫の悟さん(42)と2人の子供たちと暮らす尚美さん。店を始めた4年後に結婚した悟さんは、ビジネスのよきパートナーであり、「家族の支えができたことで、商売をさらに大きくすることができた」という。2年前には、およそ1500m2の土地を借りて16のテナントが入るショッピングモールを作り、施設全体の運営も手掛けている。今ではショッピングモールのほか、かばん店を2店舗、カフェ3店舗を経営するまでになった。
そんな尚美さんに大きな影響を与えたのは母と亡き祖母。「実家が大衆食堂をやっていたので、小さい時から母と祖母が働いている姿を見てきたし、自分自身も手伝っていた。2人は商売の師匠」という。
店を立ち上げて15年、前だけを見てがむしゃらに走ってきた尚美さんは、「スタッフも増えたので、経営者として、みんなを確実に幸せにできるように頑張らなければ」と、さらなる目標を語る。そんな尚美さんに届けられたのは、実家の食堂「ふじや」ののれん。閉店の日まで店を見守り続けた最後の1枚だ。尚美さんは「魂を引き継げということなのかな。重いですね」と涙。「子供の頃は店が忙しくて母にかまってもらえず、“店なんかやめてしまえ”と言ったこともある。それが今では、自分が忙しくて子供を構えなかったりしているんですからねぇ…」と苦笑しながらも、母と祖母から受け継いだものを噛みしめるのだった。