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#3356月7日(日)10:25~放送
イタリア・ミラノ

 イタリア・ミラノでフルオーダースーツの仕立職人として奮闘する佐佐木弥史さん(33)と、枚方市に住む父・保さん(59)、母・喜美子さん(57)をつなぐ。10年前にイタリアへ渡り、母の反対を押し切って職人の道を歩み出した弥史さん。日本でサラリーマンになってほしいと願っていた母は「大学まで出して職人になるとは…泣きました」と、当時の思いを語る。
イタリアの伝統的文化としてミラノで独自の発展を遂げてきたスーツ作り。今でも大小30軒ほどのオーダーメードスーツを作るテーラーがあるという。その中で、1,2を争う格式ある老舗が、弥史さんが働くテーラーだ。元々は師匠であるバドルッチョさん(73)が営んできたが、7年前に弥史さんが弟子入りし、1年前からは師匠と弥史さんの共同経営となった。バドルッチョさんはこの道50年の名人と謳われる職人。しかし、年内には引退することが決まっており、来年からは弥史さんが店を受け継ぐことになっている。
 1枚の生地から手作業でスーツを作るフルオーダーは、お客さんの体型や動きのクセを完全に掴むため、3度に渡り仮縫いと試着を繰り返し、完成までおよそ3か月かける。弥史さんが目指すのは、着ていてまったくストレスを感じさせないスーツ。腕を自然に下した時、体の脇のどこに袖の位置がくるのかまで緻密に計算し、ミリ単位で袖付け位置を調整するなど、ひと針ひと針、繊細な作業が求められる。妥協を許さない職人としての姿勢は、師匠から受け継いだものだという。
 弥史さんのテーラーが手掛けるスーツは一着およそ50万円。こだわりが強い顧客が多いが、ミラノのスーツ文化はそうした厳しい客の目に育てられてきたともいえる。そんな常連の一人は「弥史が作るスーツは本当に着心地がいい。ただ、イタリアの若者に仕立て職人を目指す人が減っているのは残念」と惜しむ。師匠のテーラーを守るために店を受け継ぐ決意をした弥史さんだが「僕は外国人。どうしてもイタリア人であるお客さんが構えてしまうところがある。そこへどうやって入っていけるか…」と不安も大きいという。
 大学時代からファッションに強いこだわりがあった弥史さんは「どうせやるならファッションの世界でトップを極めたい」と、卒業後迷わずミラノへと渡った。ミラノファッションの最高峰はやはりスーツ…そう考えた弥史さんは、両親から借金をしてミラノの服飾学校へ。卒業後、飛び込みで仕事を探していた弥史さんを唯一拾ってくれたのが、バドルッチョさんだったのだ。
 不安定な職人になることに反対した母を、いまだ安心させられていないことが気がかりという弥史さん。「今も心配しているでしょうね。僕自身も不安はある。でも、それを自信に変えるだけのモノづくりはしているので、安心してほしい。やると決めた限りは絶対にやってやる」と固い決意を語る。
 そんな弥史さんに届けられたのは、弥史さんの大好物である母手作りのカボチャの煮つけ。懐かしい贈り物に感極まる弥史さんは「両親のおかげでここまで来られた。小さい時から僕のワガママを何も言わずに見守ってくれた。ありがたい」と涙をこぼす。その姿を見た両親は「弥史の涙は初めて見た。それほど心配しなくてもいいのかな…と思いました」と、職人の世界でたくましく成長した息子に安心するのだった。