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#3335月24日(日)10:25~放送
フランス・パリ

 花の都フランス・パリで花屋を営むフローリストの佐伯美奈さん(44)と、横浜に住む兄の俊哉さん(56)をつなぐ。故郷を離れ20年。フランスで花屋を続けるため、師匠の養女になって店を受け継いだ美奈さん。娘を見守ってきた父と母はすでに他界。当時の両親の様子について、兄は「母は“いいんじゃないか”という感じだったが、父は寂しかったと思う。年を取ってからの娘だったので、手放す気持ちがあったようだ」と振り返る。
 1ブロックに1軒は見かけるパリの花屋。美奈さんの店は、かつて多くの芸術家が住んだモンパルナスのアトリエ通りにある。元々は美奈さんの戸籍上の父であり、師匠でもあるアランさん(70)が始めたお店(アトリエ)で、注文に応じて花を仕入れてフラワーアレンジを行っている。実はアランさん、日本でも人気の「フランススタイルのフラワーアレンジメント」を確立した著名なフローリストなのだ。
 現在は一人で店を切り盛りしている美奈さん。契約している顧客に季節の花を配達するのも仕事の1つだ。ベルサーチやアルマーニといった高級ブランドから、アパルトマンに住むごく一般の家庭まで、配達先は幅広い。お墓の花の手入れまで花屋の仕事だ。どんな花を活けるかはすべてフローリストに任されているという。閉店後も花の手入れや翌日の準備など仕事は山積みで、家に帰れないことも多い。忙しい時期には、引退して離れた街に暮らすアランさんが泊まり込みで手伝いに来てくれるという。
 幼いころから花屋に憧れていた美奈さんは大学卒業後、1年間のつもりで渡ったパリでアランさんと出会い、本場のフラワーアレンジメントの虜に。以来、彼に弟子入りし、花を大胆に使いながらも、優雅でフェミニンな印象に仕上げるフランススタイルのフラワーアレンジを身に付けてきた。そして10年が経った頃、子供のいないアランさんから店を継いでほしいと申し出を受けた。そのためには現地の戸籍が必要で、美奈さんはアランさん夫妻の養子になる決意をしたのだ。「ほかに方法がなかった。母は“あなたがそういうなら”と背中を押してくれた。信用してくれて感謝している。父は“いつでも帰って来ていいからね”と(笑)」。
 母は貼り絵、兄はサーフィンと、一人一人が好きなことを楽しむ家族の中で育った美奈さん。だが父だけは仕事一筋で趣味がなかったという。「母が亡くなったあと心配したんですが、父はよくパリに来るようになり、70の手習いで絵を描くようになって…」。毎年パリを訪れ、近くのカフェや、美奈さんの店の片隅で絵を描くことを楽しみにしていたという父。アランさんとも気が合い、昼間から2人でワインを傾けることもあったという。その父が亡くなった時、なかなか日本に帰れない美奈さんにとって、兄の存在は何より心強かったという。
 そんな兄から届けられたのは父の絵。晩年、美奈さんの元を訪れ、行きつけの店で描いたお気に入りの1枚だ。添えられた手紙には“父親の絵がだんだん上手になって、うれしそうに見せてくれたのを思い出す”と、美奈さんが知らない日本での父の姿が綴られていた。さらに「父親は母似の美奈のことが何よりも可愛かったに違いない」とも。亡き父を偲び、涙があふれる美奈さんは、兄への感謝の言葉を口にするのだった。