今回の配達先はカナダのカルガリー。プロのマジシャンとして奮闘する小野厚さん(35)と、京都に住む父・勉さん(64)、母・一恵さん(61)をつなぐ。世界を舞台に活躍するトップマジシャンを目指し、恋人と共に海を渡った厚さん。両親は「彼女とは長く付き合ってきた。ちゃんと籍を入れるつもりでいるのか…男の方からきちんとけじめをつけなければ…」と心配している。
華麗なテクニックで観客を魅了する厚さん。得意とするのは“クローズアップマジック"という至近距離で見せるマジックで、2009年にニューヨークで行われたマジック国際大会では2位、観客投票では1位に選ばれた実績を持つ。現在は個人のパーティーから、1000人近い企業のパーティーまで幅広く活躍している。
マジックの依頼があれば衣装や機材を積み、数百キロ離れた街まで1人で車を走らせる。パーティーなどではステージがないため、会場の一角に自分でスペースを設営し、マイクなどの音響からBGMのコントロールまで、すべてを1人でこなす。本番では、トランプなどを使ったあざやかな手さばきのマジックが、軽快な音楽とトークに乗せて展開される。厚さんは「マジックを見せるまでのプレゼンテーション(トーク)が面白くなければお客さんの心は掴めない。でも変に面白くしようとし過ぎると、最後のマジックの不思議さが欠けてしまう。そのバランスが難しいと」という。
厚さんがマジックを覚えたのは大学生の時。何気なく参加したマジックのサークルがきっかけだった。大阪のマジックバーで2年間プロとして働いた後、「海外で実力を試したい」と6年前にカナダへ。当時付き合っていた直実さん(34)も一緒だった。しかし、永住権を取得するまでの4年間はビザの関係でマジシャンとして働くことができず、皿洗いや寿司屋の板場で働き、ようやく仕事ができるようになったのが2年前。そんな辛い時代を直実さんが支えてきたが、自分たちの力ではどうすることもできない苛立ちから、幾度となく衝突したという。厚さんは「日本に帰るという選択もあったが、挑戦してダメだったのならともかく、プロのマジシャンとして“カナダでやっていく"と言って出てきたからには、マジックをやることもなく帰るわけにはいかなかった」と振り返る。
ようやく夢に向かって歩み始めた厚さんと直実さん。2人は現在、「コモンロー・パートナー」という、カナダの法律で定められた夫婦に近い家族関係にある。しかし2人には気がかりなことが…。直実さんは「どちらの両親からも、なぜ籍を入れないのかと言われている。カナダに住んでいると、結婚しているのと同じように認められているので焦りはないんですが…でも、ちゃんとしないといけないのかなとは思う」という。一方、厚さんはまだまだ夢の途中という思いがあるようで、「いつかテレビやメディアに出る有名なマジシャンになりたい」と大きな夢を語る。
そんな厚さんに日本の両親から届けられたのは、両親が営んでいた喫茶店で使われていた2客のコーヒーカップとソーサー。両親が二人三脚で仲良く喫茶店で働く姿を見て育ったという厚さんは、「僕もこれで飲んでいました。懐かしい…めちゃくちゃうれしいです!」と大感激。「両親はいつも2人で1つという感じで、とても仲が良かった。2客セットで送ってくれたのを見ると、自分たちみたいに仲良くやっていけよというメッセージを感じます。近いうちに籍を入れて、どちらの両親にも安心してもらいたいです」と、決意を語るのだった。