今回の配達先はドイツのヘール=グレンツハウゼン。700年前から陶器づくりが盛んなこの田舎町で、ガラスアーティストを目指して奮闘する廣畑まさみさん(30)と、兵庫県西宮市に住む父・初夫さん、母・由美子さんをつなぐ。
陶器とガラスの専門の大学で学ぶまさみさんだが、実は貯金が底を尽き、30歳になった今も仕送りに頼って生活している。ピアノ講師をしている母は「援助ができる限りしてやりたい。もっと極めて一流のアーティストになってほしい」と応援しているが、父は「早く生活の糧を見つけてほしい。(仕送りは)もう最後だと伝えているが…」と夢を追い続ける娘が理解できない様子だ。
まさみさんが通うのはコブレンツ大学セラミック・ガラス科。学生は22歳から35歳まで30人で、授業料は年間たったの1万5000円。世界でも珍しい学科ということで、12カ国から学生が集まり、そのほとんどがプロのアーティストを目指しているという。まさみさんはこの大学で3年間学び、「ゲゼレ」という「マイスター」に次ぐドイツの職人の国家資格を取得。さらにレベルの高い技術を身に付けようと、2年間ある大学院へと進んだ。
果物などをモチーフにした静物をガラスで制作しているまさみさん。その作品作りは素材の型どりから始まる。トマトやブドウ、切ったリンゴやメロンなどを石膏に浸し、さらにその上に石膏を塗り重ねていく。それを乾燥させ、しなびた果物を取り出した空間にガラス片を詰め、オーブンで3日間かけて焼き上げる。型は使い回せないため、生まれる作品はたった一つ。そこに魅力を感じるという。
高校時代にホームステイしたドイツでガラスアートに魅了され、その後、1度は日本の大学に進学したものの、ガラスアートを身につけたいとの思いから、1年間のドイツ留学を決意。母は応援してくれたが、父には猛反対され、家出同然で日本を飛び出した。「父は“安定した仕事に就いて結婚し、子供を産みなさい"という人。私から見たらとても保守的」とまさみさんはいう。その後、一旦帰国し、日本でガラスアーティストとして活動していたが、「自分にはまだ足りないものがある」と、本格的に学び直すため、7年前に再びドイツに渡った。
当初は貯金を切り崩して生活していたが、それも底をつき、母からの仕送りに頼って生活してきたまさみさん。しかし最近、もう仕送りはできないと通告された。「大学院に行くと言った時に母に言われました。でもアートだけで食べていくのは難しい。これからはアルバイトをしながら制作を続けなければ。苦しくてしんどい道だけど、私にとっては(ガラスアートを続けられることが)幸せ」とまさみさんはいう。
そんなまさみさんに両親から届けられたのは碁盤と碁石。まさみさんが幼いころから家にあったもので、父が囲碁をする傍らで、いつもまさみさんが夢中になって碁石で遊んでいたという。「さわり心地がよくて、いつも手に持って遊んでいた」とまさみさん。そんな姿を鮮明に覚えているという母。その手紙には「いつか独り立ちをするときが来ます。アーティストを目指すなら、独自の世界観と運が必要になるでしょう。いつかまさみの感性でこの碁盤と碁石を使った作品ができるとうれしい」と綴られていた。まさみさんは「応援してくれている両親に感謝している。今ここにいられることが幸せです」としみじみ語るのだった。