今回の配達先はイタリア。7年前に留学生としてこの国に渡り、今は歌手として活動する川崎絵里子さん(30)と、長崎に住む父・雅博さん(60)、母・直子さん(55)をつなぐ。父は「大学を卒業したら地元長崎で就職してもらいたかった。どういう方向を目指しているのか、まったく見えない」と不安を漏らし、母も「年齢的に結婚の事はどう考えているのか…いつまでイタリアにいるつもりなのか…」と将来を心配している。
絵里子さんがボーカルを務める「K-ble jungle」は、イタリア人男性“DJ Shiru”さんとの2人組の音楽ユニットだ。今回、イタリアのルッカで40万人を集めて開催されたイタリア最大のマンガ・アニメの祭典「ルッカ コミックス&ゲームズ」のステージで歌った絵里子さんたち。彼らのパフォーマンスは、日本のアイドル風の音楽に、声楽を学んだ絵里子さんのソプラノボイスを交えたもの。日本のアニメキャラクターが熱狂的人気を集めるこの会場で、絵里子さんがアニメキャラ風の衣装で歌い踊る音楽に、観衆は大熱狂だ。知名度はまだまだ高くないが、ヨーロッパを席巻する日本ブームの後押しもあり、月1~2回のペースでスイス、フランス、ポルトガルなど近隣諸国にも出かけ、ライブ活動を行っているという。
音楽好きの父の影響で子供の頃から音楽に囲まれて育った絵里子さん。高校から始めた声楽で才能を発揮し、数々のコンクールで入賞を果たした。その後、音楽大学に進んだ絵里子さんは、イタリア留学のための奨学金を得て、名門パドヴァ音楽院に進学した。
昨年、音楽院を卒業した絵里子さんは現在、語学学校で日本語教師として働いている。実はこの学校の校長が“DJ Shiru”ことシルビオさん。大の音楽好きで日本関連のイベントでプロデュースもしていたシルビオさんが、絵里子さんに音楽ユニットの結成を持ちかけたという。「本当はタレントとかテレビに出る仕事に憧れてたけど、それを自分の中にずっと隠してきた。その思いを自分の中で再確認した」と絵里子さん。シルビオさんの誘いが、諦めかけていた夢へ踏み出すきっかけとなったのだ。
2人はユニット結成と同時に、日本文化を紹介する番組を制作し、自らも出演するなど、タレント活動も精力的にスタートさせた。絵里子さんは、これまで学んだ声楽を生かし、大人向けの曲をしっとりとイタリア語で歌えるようになりたいと望んでいる。しかし、ヨーロッパの観客には日本のアニメソングをカバーして歌うのが一番盛り上がるという現状に葛藤もあるという。30歳という年齢については「イタリアの文化では日本みたいに“アイドルは20代まで”みたいなことは全くなく、シルビオさんも年齢は気にしなくていいと言ってくれる。それを信じて、できるところまでやってみたい」という。
そんな絵里子さんに日本の両親から届けられたのは、アイドル仕様にしつらえられたマイク。添えられた手紙には、“この先も今のような生活を続けるのか?”“結婚は考えているのか?”など、これまで聞きたくても聞けなかった本音が詰まっていた。絵里子さんは「私が思っていた以上に心配してくれてるいんですね」と涙し、「複雑な思いはあっても、このマイクを見ると、応援してくれてるのかなと思う。心配ばかりかけるけど、やれるところまで頑張るので、応援してもらえるとうれしい」と両親に語りかけるのだった。