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#30911月16日(日)10:25~放送
ニュージーランド・ネルソン

 今回の配達先はニュージーランドのネルソン。この国でただ一人、自ら味噌を作り、販売している日本人の味噌職人・前田武人さん(43)と、埼玉県に住む母・文子さん(66)、妹・千夏さん(42)をつなぐ。味噌は生き物のため、片時も目を離すことができず、日本にはもう7年も帰っていない武人さん。母は「全然様子が分からず心配している。今の息子の顔が思い出せなくなってしまう」と案じている。
 健康志向の高まりで発酵食品が注目を浴びているニュージーランド。武人さんは自宅に味噌工房を構え、妻の美笑さん(36)と二人三脚で、ニュージーランド産の大豆を使った“国産味噌”を手作りしている。仕込むのは1週間に200キロずつ。味噌作りに欠かせない、蒸した米に麹菌を繁殖させた「米麹」も、自作の“麹室”で2日間目を離さず仕込んだ手作りだ。味噌の熟成期間は半年。3LDKの自宅は出荷を待つ味噌であふれている。こうした味噌作りは、何度も失敗を重ねながら独学で身に付けたという。「母も手先が器用でいろいろなものを作っていた。
 その血を引いているかもしれない」と武人さんはいう。 
手に職を付けたほうがいいという母の勧めもあり、調理科がある高校に進学した武人さん。卒業後は割烹料理店に就職したが、旧来の徒弟制度になじめず、28歳の時に仕事を辞め、ワーキングホリデーでニュージーランドへ。日本料理店で料理人として働きながら、趣味として自宅で味噌を作っていた。商売にしようとは考えていなかったが、ある日、日本人の女性から店に電話があり「味噌を作ってるんですね。私も作りたいと思っているんです」と言われて、「先にやられたらマズい…と(笑)。背中を押されましたね」。武人さんは店をすっぱり辞めて本格的に味噌作りを始めることに。
 創業して3年。夫婦2人で手探りで始めた味噌作りだが、当初は苦労の連続で、貯金を切り崩しながら生活していたという。現在は健康志向の高まりで味噌にも注目が集まり、70件の店に味噌を出荷するようになった。時には生産が追い付かなくなることもあるという。武人さんの味噌は少しずつ知られるようになり、今年ようやく黒字になった。
 今、武人さんの気がかりは5年間会っていない母のこと。最近体調を崩したと聞き、「心配している。今回、自分の様子を見てもらって、頑張ってるなと思ってくれたらうれしい」と話す。だが、日本に帰る考えは今のところないという。「商売も始めたし…母は悲しがると思うが、ニュージーランドが自分の国になりつつある」と、思いを明かす。
 そんな武人さんに日本の母から届けられたのは、手作りの草履。モノづくりが大好きな母が、武人さん夫婦に使ってほしいと、古着を使って編み上げたものだ。武人さんは「自分も昔から手を使ってものを作るのが好きだった。自分のルーツを感じます。親子なんですね」と、草履を手にしみじみと語るのだった。