今回の配達先はノルウェーの首都オスロ。6年前に800億円をかけて建設されたモダンなオペラハウスを本拠地とするノルウェー国立バレエ団に所属するバレリーナの西野麻衣子さん(34)と、大阪に住む父・敦夫さん(59)、母・衣津栄さん(64)をつなぐ。バレリーナになるため15歳で海を渡った麻衣子さん。父は「もう日本には帰ってこないと思った。バレエに嫁にやったと思っている」と話す。
国立バレエ団に所属するのは世界各国から集まった65人のダンサーたち。その中で麻衣子さんはトップを走る“プリンシパル”。主役しか踊らないバレエダンサーの最高位だ。19歳の時、オーディションに合格して入団。25歳で東洋人初のプリンシパルに抜擢され、ノルウェーで芸術活動に貢献した人に贈られる「ノルウェー評論文化賞」も受賞した。彼女の武器は172cmの長身と、長い手足を生かしたダイナミックかつエレガントな踊り。バレエ団の顔でもある麻衣子さんは、多い時で年間70公演にも出演する。現在も4本の公演を控え、1日に何本もリハーサルをこなす。
6歳からバレエを始め、15歳の時、名門英国ロイヤルバレエスクールに留学。当時は技術的にも精神的にも未熟で、パニック障害になったり、眠れなかったり、苦しい時期が続いた。母に電話で弱音を吐くと、「そんな甘い世界だと思って行っているの?」と叱咤されたという。「強くなれなかった。でもキャリアを積んで、ニコライに出会って、今は強い人間になった」と麻衣子さんはいう。
私生活ではノルウェー人の夫・ニコライさん(40)と10カ月の長男・アイリフ君と3人暮らし。オペラハウスで芸術監督をしているニコライさんとは劇場で出合い、8年前に結婚した。ノルウェーは物価が日本の約3倍と高いが、その分福祉が充実しており、麻衣子さんも出産費用は1円もかからなかったという。さらに、国立バレエ団のダンサーは国家公務員に当たるため、41歳で引退するが、その後すぐに年金が支給されるという。ダンサーへの待遇は、それだけ国から期待されている証しなのだ。
今回、出産後初めての遠征で夫婦そろってパリツアーに出るため、息子を夫の実家に預けることに。「子供ができてからは自分の時間がなくなり、体の管理をするのが難しくなった。来年には35歳になる。いつケガをするかもわからない。健康でいられるうちに100%の力を発揮しておかないと。後悔はしたくない」。母としてバレリーナとして、さまざまな思いを胸に秘めながら、麻衣子さんは妥協することなく突き進む。
日本を離れて19年。今やノルウェーでは知らぬ者はいないというプリンシパルとなった麻衣子さんに、日本の両親から届けられたのは、一枚の寄せ書き。15歳で海外に出て、なかなか会うことが叶わない地元の仲間たちに父が声をかけ、一つ一つ集めたものだ。そこには両親からのメッセージも。母からは「夢を実現した努力とパワーにいつも感動しています」、父からは「まだまだ夢を追いかけ、素晴らしい人生を作り上げてください」と綴られていた。麻衣子さんは「うれしい。応援してくれる人が多すぎて、自分だけのためにはもう踊れませんね」と言って、涙をこぼすのだった。