今回の配達先はベトナム・ホーチミン。大手うどんチェーンの丸亀製麺ベトナム1号店店長の山本隆之さん(42)と、大阪に残した妻・あいさん(42)、長男・勘太朗君(12)、長女・琴子ちゃん(3)をつなぐ。丸亀製麺ベトナム事務所の所長でもある隆之さんは、同社のベトナム進出のすべてを任され奮闘中。妻は「まったく知らない土地で店をオープンさせるというのが想像もつかない。どういうことをやっているのか?ちゃんと食事はしているのか?」と心配している。
今年ホーチミンにオープンした日本の大型スーパーの1角に店舗を構える1号店。日本と同じセルフ方式で、カウンターでうどんを注文し、好みのてんぷらなどをトッピングするシステムだ。隆之さんは丸亀製麺ベトナム進出の足掛かりとなる大事なこの店舗を、開店準備からすべて一人で進めてきた。
独特の麺文化を持つベトナム。隆之さんは釜揚げうどんなど定番は残しながら、ベトナム人の味覚に合わせたオリジナルメニューを自ら開発し、店は連日、行列のできる大盛況となっている。従業員は全員がベトナム人。隆之さんは忙しい合間を縫って、親子ほど年の離れた彼らに自らうどん作りも指導する。 さらに、年内にあと2店舗をオープンさせる計画があり、隆之さんは1号店の運営の傍ら、店舗設計から設備施工のチェックなど、開店準備に忙しい。「一人で全部やらないといけない分、やりがいもある。でも正直キツイところもありますね」と隆之さんは打ち明ける。
大学卒業後、大手メーカーに就職し、アジア担当として海外事業をいくつも成功させた隆之さん。30歳を前に独立し、貿易会社を立ち上げたが、やがて不景気で業績が悪化。経営は行き詰まった。そんなとき、何も言わず支えてくれたのが妻のあいさんだった。しかし、結局10年目に会社を手放すことに。このうどん店には再起をかけての就職だった。最初は日本の店舗で修業していたが、かつて海外事業を手掛けた実績を見込まれ、ベトナム進出のプロジェクトリーダーに大抜擢。1年前、妻子を残してホーチミンに渡った。
以来、連日激務に追われながら、休む間もなく走り続けてきた隆之さん。「ベトナムで従業員たちのために、もう少し頑張りたい気持ちはあるが、家族のためには日本にいてやりたい」。隆之さんの気持ちは大きく揺れている。
遠く離れて暮らす家族を思いながら1人奮闘する隆之さんに、妻から届けられたのはDVD。そこには、長女が最近始めたというバレエを踊る姿と、この春中学校に入学し、野球部に入った長男が部活にいそしむ姿が収められていた。成長した子供たちの姿に、しみじみ涙する隆之さん。「一番見たかった姿を見られて安心しました。もうひと頑張り、ふた頑張りできると思う」と元気をもらい、妻には「まだしばらく苦労を掛けると思うが、子供たちをよろしくお願いします」と語りかけるのだった。