今回の配達先はタンザニア。この国の人々の主食である米作りが一番盛んなムベヤ州ウバルクで、農業機械のレンタル業を営む川田慎一郎さん(26)と、埼玉県に住む父・茂さん(58)、母・秀子さん(56)をつなぐ。日本では大手商社のエリートサラリーマンだった慎一郎さん。安定した暮らしを捨ててタンザニアに渡った息子に、父は「馬鹿野郎ですよね。何の因果であんないい会社を辞めてまで…」といいながらも、息子の奮闘を見守っている。
稲刈りシーズンを迎えたウバルクで、ロッジに滞在している慎一郎さん。「1,2カ月ごとにロッジを変えながら、ヤドカリみたいに仕事をしている」と笑う。慎一郎さんが勤める「シードアフリカ株式会社」は、貧困農家の所得向上を目指して、2012年に日本人実業家が設立した農業機械のレンタル会社。慎一郎さんは現地法人の社長を任され、昨年、たった一人でこの国にやってきた。
事業を始めてまだ半年。会社が所有する農機は稲刈り用のコンバインと、それを水田まで運ぶトラクターの2台だけ。慎一郎さんは、現場監督1人と、トラクターやコンバインの操作を行うオペレーター2人、合計3人のタンザニア人スタッフを社員として雇っている。顧客は、いまだ機械を使わず、手作業で種まきや稲刈りをしている農家の人たち。慎一郎さんの会社では1時間で1エーカー(およそ4000平方メートル)の稲を刈り取り、レンタル料は日本円で7,000円~1万円ほど。人の手でやると6~10日もかかり、大人4人を雇わなければならない。それと同等の値段設定だが、水田のオーナーにしてみれば時間が大きく短縮できるのだ。
近年タンザニアには海外から多くの農機が寄付され、機械化が急速に進んでいるが、修理する技術がないため、一旦故障するとそのまま放置されるのがほとんど。農機レンタルはその問題点に目を付けた新しいビジネスなのだ。そこには慎一郎さんのある思いが…。「機械が入ることで、収穫に駆り出されていた子供たちが学校に行けるようになり、農民たちの収入もアップし、いろんなことにチャレンジできるようになる。彼らの視野が広がれば、国としても成長できる」と。
早稲田大学を卒業して大手商社に就職した慎一郎さんだったが、安定した生活とは裏腹に、ある思いが芽生えたという。「3,4年したら駐在して日本に戻り、また駐在して…というのが、自分としてはあまり面白くないなと」。悩んでいた時期、偶然テレビで現在の会社を立ち上げた日本人を知り、共感。その人物に直接連絡を取ったことから、話が進んでいったという。
「先が見えているキャリアより、何が起こるかわからない方が僕としては面白い」。慎一郎さんはすべて捨てて、昨年11月、単身タンザニアへ。トラクター1台とコンバイン1台だけを携えてのスタートだった。「人助けももちろんあるが、ボランティアはモノをあげたらそれで終わり。ビジネスで持続的に現地の人を使いながら成長していくほうが、彼らの収入アップにもつながるし、僕らも稼げて“Win-Win”になれる」と慎一郎さんは語る。
事業を始めて半年。収支は早くも黒字で、2台目のコンバインを購入予定。新規ビジネスとして精米事業も計画中という。挑戦を続ける慎一郎さんに日本の両親から届けられたのは、母手作りのチョコチップ入りケーキ。一口食べた慎一郎さんは「変わらないいつもの味です」と懐かしみ、「兄弟で1人ぐらい道を外れる子がいても楽しいじゃないですか(笑)。これからも応援と、ちょっと期待もしていてほしい」と、両親へメッセージを語るのだった。