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#2937月13日(日)10:25~放送
オーストリア/フェルトキルヒ

 今回の配達先はオーストリアのフェルトキルヒ。野球監督として奮闘する田久保賢植さん(30)と、千葉県に住む父・博さん(52)、母・ゆかりさん(49)をつなぐ。野球選手として生きていく夢を捨てきれず、海外を渡り歩く流浪の野球人生をおくる賢植さん。息子の気持ちがわからず悩み続ける両親は「息子の夢を信じたいが…どこを目指しているのか。いつまで続くのか…」と不安を口にする。

 まだまだ野球後進国のオーストリアにはプロ野球がない。賢植さんが監督を務める2部リーグの「フェルトキルヒ・カージナルズ」の選手たちは皆、仕事や学校と掛け持ちで野球をしている。今年新設されたホームグラウンドは、以前サッカーグラウンドだったところをそのまま使用しているため、外野は扇形ではなく長方形のまま。ベンチスペースやロッカー、イスなどはすべて球団関係者の手作りだ。1部リーグ昇格を目指して賢植さんが監督として招へいされたが、選手たちの実力はまだまだ低いと言わざるを得ない。

 子供の頃から夢だったプロ野球選手を目指し、17歳でアメリカへ野球留学した賢植さん。その後、独立リーグで野球を続けるも、プロの夢は叶わず、24歳の時に一般企業に就職した。しかし野球への未練は断ち切れず、2年で会社を辞めて独立リーグに復帰。その後、なんとかチャンスを掴もうと海外へ。選手やコーチとしてアメリカ、オーストラリア、チェコなど世界各国を転々とし、今回6カ国目となるオーストリアにやって来たのだ。監督を任されるのはこのチームが初めてで、ほとんど野球を知らずに育った選手に教えるのは、日本とは違って苦労も多いという。

 そうまでして賢植さんが野球を続ける理由。それは「いずれオランダやイタリアなどヨーロッパのプロリーグでプレーしたい。僕のように野球エリートのレールからドロップアウトした人たちに、日本にいる選手たちとはまた違うキャリアの作り方とか、目指せるものがあるということを示したい」と賢植さん。日本やアメリカでプロになれなくても、野球で生きていく道があることを伝えたいとの思いで、この国にやって来たのだ。

 試合には賢植さんも監督兼選手として出場している。去年1年間でたった7勝しか挙げられなかったチームが、賢植さんが就任して、開幕から連勝を続けるなど、快進撃を見せている。そんなある日、賢植さんはオーストリア代表チームの監督から突然の電話で呼び出された。なんと、7月に行われるU-21のヨーロッパ大会で3塁コーチを任せられることになったのだ。

 夢を信じて続けてきた努力が少しずつ実を結び、手応えを感じる賢植さんに、日本の両親から届けられたのは、野球に明け暮れていた高校時代、毎日使っていた保温式の弁当箱。添えられた母の手紙には、オーストリアに発つ前、“帰ってきたら家を出て独立するように”と言った母に腹を立て、口もきかずに旅立った賢植さんへの思いが綴られていた。「親元にいて帰る家があって、社会人として”俺の人生“と言えるのでしょうか」。さらに、「これからは自分でお弁当を詰めてみて、もう一度あの頃の自分を思い出して、“俺の人生”をしっかり掴んでください」と。その言葉が胸に刺さった賢植さん。涙ながらに「産んでもらった親に喜んでもらいたいと思って、いつも生きている。早くそれを実感してもらえるように頑張りたい」と思いを明かすのだった。