今回の配達先はチェコ共和国。文化として古くから人形劇が根付き、街には多くのマリオネット専門店や人形劇専用劇場があり、日常的に人形劇が楽しまれている。そんなチェコの首都プラハで、人形作家として活動する林由未さん(35)と、横浜に住む父・宏昭さん(69)、母・接子さん(67)をつなぐ。まるで生きているかのように豊かな表情を見せる彼女の人形は、チェコの子供たちの心を捉え、数多くの人形劇で使われている。両親は「娘の亡き祖父が、いつも手作りの人形で楽しませていた。その影響が大きいと思う」と話す。
3年前に結婚したご主人のペトルさん(43)と、工房を兼ねた家で暮らす由未さん。今は1か月後に迫った人形劇「金髪のお姫様」の公演に向けて人形制作の真っ最中だ。使用する10体の人形は、由未さんが彫刻刀を使って一つ一つ木を彫り進め、すべて1人で制作する。「人形劇用の人形はお客さんから細かいところが見えない。頑丈に、壊れないように作ることが大事」と、由未さんは観賞用の人形作りとの違いを語る。
「金の紡ぎ車」という作品の人形も手掛ける由未さんは、そのリハーサルにも参加していた。この題材はチェコに古くから伝わる物語で、主人公の女性が悪者に手足をもがれ、目をくりぬかれてしまうシーンがある。そんな演出を再現するため、由未さんは人形にさまざまなカラクリを盛り込む。そのアイデアも演出家たちから高く評価されているのだ。
そんな由未さんに大きな影響を与えたのは亡き祖父。「祖父は独学でマリオネットやハンドパペットを作って遊んでくれた。すごく影響を受けた」と由未さんはいう。東京造形大学、東京藝術大学大学院で人形作りを学んだ由未さんは、その後、本場で技術を身に付けたいと、チェコへの留学を決意。その時、心配する両親を説得してくれたのも祖父だった。
そして、2007年にチェコ国立芸術アカデミー大学院に入学。それから7年。ようやく生活も安定してきたが、日本で人形作家を始めたころはまったく売れず、挫折しそうになったことも。「母に“バイトでもしようかな”と言ったら、そんな覚悟しかないのなら就職しろと言われた。バイトをする時間があるなら制作に励めと。力強かった。感謝しています」。
今では人形制作だけでなく、舞台美術監督も務め、最近は自らの人形ブランドも立ち上げた。亡き祖父への思いを胸に、人形作家として奮闘する由未さん。「今の姿を祖父が見たら、すごく喜んでくれたと思う」と、それを見てもらえなかったことを惜しむ。
そんな由未さんに、日本の両親から届けられたのは、祖父手作りの獅子頭。“おじいちゃんのように、子供たちに夢を与え続けてほしい”という両親の思いが込められていた。由未さんは「この獅子頭は大好きでした。祖父が作っているのを見て、自分もこういうのを作れたらいいなと思っていた」と懐かしみ、「祖父のことを考えると涙が出る。祖父への思いは強い。今も見守ってくれていると信じている」と、涙で語るのだった。