今回の配達先はニュージーランドのオークランド。人口の15%を中国や韓国からのアジア系移民が占めるこの街で、9年前からラーメン店「タンポポラーメン」を営む栗原道生さん(45)と、東京に住む母・和美さん(67)をつなぐ。18年前にニュージーランドに渡った道生さん。母は「こんなに長くいることになるとは思わなかった。ラーメン店をやると聞いたときは、いつまで続けられるのかわからないし、心配でした」と話す。
4人の日本人従業員と共に店を切り盛りする道生さん。メニューはラーメンのみで、手間暇かけて煮込んだとんこつスープ、製麺所にオーダーした特製卵麺、手作りチャーシューが自慢だ。現地の人に合わせた味ではなく、あえて日本の味で勝負し、今やオークランド屈指の人気店になった。
人生の目標が定まらない20代を過ごし、27歳の時、ワーキングホリデーでニュージーランドへ。現地のラーメン店でアルバイトをしたのがきっかけで、自分の店を持つことを決意。日本に戻って修業をし、36歳でその夢を叶えた。
「その時は母に反対された。母親には何かあるたびに”やめろ”と言われてきた。心配なのかもしれないが…。最近も日本に帰った時にケンカになった。せっかく会ってもすぐにケンカだと、もう会わない方がいいのかなと…」。きちんと話し合えないまま、母との溝が深まってしまったことを、道生さんは気に病んでいるようだ。
人口は少ないのに食べる店は多く、レストランの平均寿命は半年といわれるオークランド。ここ数年はラーメン店が続々と増えていて、「厳しいです」と道生さん。しかし、店同士が争うのではなく、みんながおいしいラーメンを作ることで、ラーメンブームにつながって欲しいと願っている。
道生さん自身、1年半前にオープンした2号店も順調だ。5年前には一軒家を購入し、妻・真由美さん(34)、昨年生まれた長男・めぐるくん(1)と充実した日々を過ごしている。「40代になってから、今までやって来たことが実ったという実感がすごくある。今のところ日本で暮らしていくのは想像できない」と道生さんはいう。
だが、気がかりなのは母のこと。道生さんは「子供を持ってみて、自分が幼い頃、母は自分のことをどう見てくれていたんだろうと考えるようになった。離婚もあって、僕と母と妹の3人で小さなアパートでの生活…大変だったと思う」と母の苦労を思う。
そんな道生さんに母から届けられたのは鯉のぼり。添えられた手紙には、離婚した時に道生さんが支えてくれたこと、異国の地で人生を切り開き、立派になってくれたことへ、今まで言えなかった「ありがとう」がたくさん綴られていた。そして「めぐるくんを私に会わせてくれたことが一番の親孝行です」と感謝の思いも。道生さんは「いままで自由にやらせてもらってきた。僕のことは心配しないで、これからは自分の身体を心配して、いつまでも長生きしてください」と母に語りかけ、オークランドの空に鯉のぼりを高く掲げるのだった。