一本の丸太をチェーンソーで削り、彫刻を作り出すアート “チェーンソーカービング”に魅せられ、アメリカでプロの“チェーンソーカーバー”として活躍するブレイン亜弥さん(39)と、大阪に住む父・一之さん(67)、母・一代さん(70)をつなぐ。10年前にカービングを始め、8年前、結婚を機に渡米した亜弥さん。両親は「行くと決めたら、親に相談なしで行ってしまった」と、やりたいことには猪突猛進の娘に諦め気味の様子だ。
亜弥さんはアメリカ各地で行われるチェーンソーカービングの大会やイベントに参加し、自らの作品の販売を行っている。今回はペンシルベニア州リッジウェイで毎年開催されている世界最大級のチェーンソーカービングのイベントに参加。今年は世界各国から168人のカーバーが集まり、9日間にわたる期間中、各自のブースで作品を実演販売する。亜弥さんは7種類のチェーンソーを大胆かつ繊細に操り、ドラゴンやアライグマ、ニワトリ、ウサギなど、主に野生動物をモチーフに、丸太に命を吹き込んでいく。
イベントは全米各地で行われ、亜弥さんは毎回一人で参加。イベント期間中は町のショップや一般家庭がカーバーのために宿泊場所を提供してくれる。広大なアメリカだけに、トレーラーを引いて、丸一日運転して移動しなければならないこともあるという。
亜弥さんは9日ぶりにホワイトヘイブンにある自宅へ戻り、普段の生活に戻った。翌朝、息子のフレディ―君(6)のお弁当を作り、車で学校へ。車中で亜弥さんが歌うのは日本の民謡だ。子供のころ、民謡が趣味だった母とよく一緒に歌ったという。母の影響で高校卒業するまで津軽三味線と民謡を習っていた亜弥さん。そんな娘について、母は「とても上手で、民謡で食べていくものだとばかり思っていた」と話す。
フレディ―君を学校に送り届けた後は、夫・マイケルさん(56)と経営するショップへ。マイケルさんも同じチェーンソーカーバーで、世界中の大会で幾度も優勝を果たしたトップカーバーだ。かつて日本で開かれた大会にマイケルさんが参加し、亜弥さんとはそこで知り合ったという。ショップにはそんな2人の作品が並べられている。亜弥さんは愛犬などペットに似せて彫るポートレート作品に力を入れており、今ではポートレートを得意とするカーバーとしてその名が知られるようになった。「夢は90歳で現役女性カーバーとしてギネスブックに載ること」と亜弥さんはいう。
29歳の時、“自然の中で暮らしたい”と岡山の田舎に移住した亜弥さんが、木を切るためにチェーンソーを手にしたのが最初のきっかけ。その後、チェーンソーカービングと出会い、すっかりハマってしまった。それから10年。わき目も振らず夢を追い続け、振り返れば両親には迷惑のかけ通しだったという。
そんな亜弥さんに、日本の両親から届けられたのは、子供のころ亜弥さんが使っていた三味線。亜弥さんと一緒に民謡を歌ったあの時間が、母には大切な思い出だという。「遠く離れていても、つながっているよ」。そんな思いが込められていた。「懐かしい!」と、さっそく三味線を弾いてみる亜弥さん。「練習して何曲か弾けるようになったら、日本に帰った時にまた一緒にやりましょう」と母に呼びかけるのだった。