今回の配達先はアメリカ・ロサンゼルス・ハリウッド。ディズニーアニメーションのトップクリエーターとして活躍するCGモデラーの糸数弘樹さん(51)と、沖縄・久米島に住む母・絹代さん(83)、兄・豊信さん(52)、弟・好信さん(49)をつなぐ。母は「本当は久米島で先生になってほしかった。でも本人がどうしても行きたいと…」と、反対したい気持ちを抑えて、28年前アメリカに飛び立った弘樹さんを見送ったという。
弘樹さんの仕事は「モデラー」と呼ばれ、アニメ映画のキャラクターや背景など、デザイナーのスケッチや2D(平面)のイメージを元に、コンピューターグラフィックスで3D(立体)に描き起こすスペシャリストだ。ディズニーが創立90周年を記念して制作した最新作『アナと雪の女王』は、ディズニーアニメーション史上、初めてアカデミー賞長編アニメーション賞に輝いた。弘樹さんはこの作品で背景を担当。独特の世界観を生み出すため、氷の一粒一粒にまでこだわったそうで、その技術が受賞に大きく貢献した。今回、普通では入れないウォルト・ディズニー・スタジオに特別な許可を得てカメラが入り、弘樹さん自らCG制作の裏側も明かしてくれた。
元々工業デザイナーを夢見てアメリカに留学した弘樹さん。当初はアルバイトをしながら生活費をねん出していたが、次第に貯金も底を突き、いよいよ夢を断念して帰国しなければならないというその時、奇跡が起きた。たまたま出かけたラスベガスでスロットマシンをやり、なんと2万ドル(当時およそ300万円)を手にしたのだ。それを学費に回して、無事に大学を卒業した弘樹さん。そこで学んだCGの技術を見込まれ、映画の世界に足を踏み入れたのだ。「最初はワーナーで実写映画の特殊効果をやり、アニメーション映画にも関わったが、その後ワーナーがアニメ映画部門を閉鎖することになって。ちょうどそのときディズニーから声をかけてもらったんです」と弘樹さん。それから14年。苦労の末、今やトップクリエーターとして成功するまでになった。
28年前、故郷・久米島を離れるときは笑顔で送り出してくれた母。「僕を見送った後、母が泣いていたと後で知りました。本当は行かせたくないと思っていたとはまったくわからなかった。その時の母の気持ちを思うと…。親には感謝しています」と、弘樹さんは思わず涙する。
そんな弘樹さんに母から届けられたのは手作りの沖縄菓子・サーターアンダギー。「子供のころによく食べていました。沖縄を思い出します」と懐かしむ弘樹さん。添えられていた手紙には「あなたが沖縄で過ごした年月よりもアメリカ暮らしの方が長いんですね。子供たちもみなそこで生まれ“終のすみか”になるのかと思うとさびしい気もしますが、どこで暮らそうが元気で幸せでいればそれが一番です」と、母の思いが綴られていた。弘樹さんは「うれしいですね。ありがたい。自分が親になって、子供を持つ親の気持ちがわかります。感動です」と、母を思って涙するのだった。