今回のお届け先はベトナム・ホーチミン。世界各地の郷土菓子を研究するため、フランス・パリから日本に向けてユーラシア大陸を自転車で横断中、現在この町に滞在している林周作さん(25)と、京都に住む父・茂勝さん(52)、母・紀子さん(51)をつなぐ。3年前に仕事を辞めて日本を飛び出し、フランスに渡った周作さん。両親は「日本に帰ってどうしていくのか…」と心配している。
1年ほどフランスの洋菓子店で修業ののち、2012年6月にパリを出発。これまで自転車で走った距離はおよそ3万kmにのぼる。1日100kmを走り、夜は一般の民家に泊めてもらいながら移動。1か所に数日間滞在し、その土地の菓子を食べ歩いて調査しながら、レシピをまとめている。ホーチミンではベトナム人とフランス人のカップルの家に泊めてもらいながら、もう2週間も調査を続けている。
新しい町に到着すると真っ先に向かうのは市場。見たこともないお菓子に出会うとまずは食べてみる。そしてお店の人に材料やレシピなど詳しい話を聞く。これまで出会った菓子は25ケ国、300種類以上。写真もお菓子だけでなく、売り手や作り手と共に撮る。一つの町に滞在中は、周辺の小さな村にも足を延ばし、人々と触れ合うのも楽しみの一つだ。「郷土菓子はその地に根付いたもの。町と町の間の小さな村で出会った人々と話をしながら、そこで見知らぬお菓子と出会い、その土地の雰囲気を感じることが僕の中で一番大事なんです」と周作さんはいう。 調査から戻ったら、すぐにその日の取材結果をまとめる。実は旅で出会った郷土菓子を紹介するフリーペーパーを毎月発行しているのだ。その数3千部。1口2千円のスポンサーも徐々に増え、旅を続ける資金になっているという。
出会ったお菓子を記録したノートはもう3冊目。「帰国したら、日本で世界各地の郷土菓子を売る店を持ちたい。お菓子自体がもつ面白さがあるので、あとは自分がどう見せるか次第。成功するかはわからないが、なんとかやっていけるんじゃないかと思っている」という。自分の店で出すお菓子のラインナップも40種類ほどに固まってきた。お世話になったホストファミリーに、そんなお菓子を作って振る舞うのも、間近で反応を知ることができ、将来店を出した時にきっと役立つと考えるからだ。
だが周作さんにはずっと心に引っかかっていることがある。元々料理人志望で、専門学校を卒業後、一旦はイタリアンレストランに就職したが、数か月で辞めてしまったのだ。「料理人の世界は体育会系。僕の居づらい雰囲気だった。自分が強ければそこで働き続けたのだろうけど…」とその理由を説明しようとするが、「でも、どう言っても“逃げ”みたいに伝わりそうで」と頭を抱える。さらに「“嫌なものは嫌”で、やりたいことをしてどう生きていくのか考えたら、こういう結果になったんだと思う。でも仕事を辞めたことは、もしかしたら一生引きずるかもしれない」と、心の傷になっていることを明かす。
パリを出発して間もなく2度目の正月を迎えようとしている周作さんに、日本の両親から届けられたのはお雑煮。“無事に帰ってきますように”と願いを込めて、父が餅をつき、母が作ってくれたものだ。懐かしい雑煮を味わい、感激の周作さん。「ずっと心配ばかりかけてきた。そろそろ安心してもらいたい」と両親への思いを語るのだった。