今回の配達先はアメリカ・インディアナポリス。ここで行われる世界最大級のオフロードバイクレース「GNCC(グランド・ナショナル・クロスカントリー・シリーズ)に参戦するプロオフロードライダーの小池田猛さん(35)と、神奈川県に住む母・春枝さん(59)をつなぐ。30歳を過ぎて本場アメリカで挑戦する道を選んだ猛さん。無謀な挑戦に思われたが、母は「行かずに後悔するより、行って後悔するほうがいい。ダメならゼロから出発すればいい」と息子を見送った。
世界で最も過酷なレースの1つといわれる「GNCC」は、“エンデューロ”と呼ばれる種目で、自然の中に設定された1周20キロほどのコースを周回する耐久レース。世界各国から集まったトップライダーが年間13戦を戦う。森を抜け、激流を渡り、急斜面を上るという、まさに大自然との戦いで、強靭な体力と精神力が試される鉄人レースなのだ。若く勢いのある選手たちの中で、最年長に近い35歳の猛さんにとっては苦しい戦いだ。猛さんは「体力の差も出てくるかもしれないが、まだ大丈夫。まだまだバイクに乗っていたい」という。
バイクとの出会いは4歳の時。“息子をどうしてもプロライダーにしたい”という父のもと、毎日練習に明け暮れた。両親の離婚後もバイクを続け、高校時代にはバイクメーカーとプロ契約を交わし、モトクロスやエンデューロの世界で日本チャンピオンにのぼり詰めるなど、30年以上に渡り、トップ選手として走り続けてきた。
だが30歳を過ぎ、選手生命の残りが見えてきたとき、“本場アメリカで挑戦したい”という思いが湧き上がってきた。そして2年前、すべてを投げ打って、妻・綾子さん(37)、娘・冬乃ちゃん(8)と共にアメリカへ。綾子さんは「結婚した時にはすでに夫はライダーだった。彼がレースをするなら、全力で応援し、支えるのが私の人生だと思ってきた。悔いを残すことなく、ライダーとして人生を全うしてほしい」と夫への思いを語る。
日本では大手企業から万全のサポートを受けていたが、現在は自分で資金集めをするプライベートライダーとして参戦しているため、レースをサポートするのは綾子さんと冬乃ちゃんだけ。家族で悲願の表彰台を目指してきたが、今シーズンの成績は現在のところ総合12位と振るわず、猛さんとしては到底納得できるものではない。資金提供してくれているスポンサーとの来季の契約のめどもまったく立っていない。
選手生命が絶たれるかもしれないという崖っぷちの中で迎えたシリーズ最終戦。「結果を残して来年につなぎたい。最後のレースにはしたくない!」。そんな強い思いで走り抜き8位という今季最高の結果を出した猛さん。しかし、彼が目指す表彰台には程遠い。
いま、ライダーとして厳しい現実を突きつけられている猛さんに、日本の母から届けられたのは、12歳の時に猛さんが獲得した優勝楯。大人の選手でも飛べないようなジャンプを見事に決め、会場が大歓声に沸いた瞬間を、母は今も忘れられないという。「あなたが納得するまで、思う存分やり遂げなさい」。楯にはそんな思いが込められていた。母の応援に、猛さんは「来年は絶対に表彰台に乗りたい。とことんまでチャレンジしたい」と、決意を新たにするのだった。