今回の配達先はイギリス。古き良き中世の街並みを今に残すシュロップシャー州に住むアンティークディーラーの宇梶明美さん(50)と、宮城県仙台市に住む母・富美子さん(73)、弟・正洋さん(46)をつなぐ。夫の海外転勤で14年前にイギリスへ渡った明美さん。日本にいたころからアンティーク好きだったそうだが、弟は「まさかディーラーになるとは」と驚き、母も「どんなことをしているのか…仕事ぶりが見てみたい」という。
本場イギリスで6年前からアンティークの買い付け代行を始めた明美さん。現在はインターネットショップを立ち上げ、自らオークションで競り落とした品を、日本人向けに販売している。明美さんは「新しいものにはないぬくもりとか、大量生産品にはないオンリーワンなところが“私だけのもの”という感じがする」と、アンティークの魅力を語る。
オークションで年代物の家具や食器を競り落とし、販売する”アンティークディーラー”。アンティークと呼ぶことが許されるのは、100年以上の時を経たものだけだという。オークションでは、まず事前の”下見会”で出品予定の品がすべて公開され、参加者による目利きが行われる。明美さんも落札したい商品を”下見会”で、入念にチェックし、その状態や価値を慎重に見極める。自分の目利きひとつで利益が大きく変わるシビアな世界なのだ。
本番のオークションでは、進行役の”オークショナー”が連呼する商品の価格に、参加者が手を上げたり、うなずいたりして入札の意思を表示。オークショナーは値段をどんどん上げていき、最後に値をつけた人が落札する。一つの商品あたり、落札までたったの40秒というスピーディーさだ。こうして落札した商品は、その日のうちに持ち帰り、販売の準備に取り掛かる。
明美さんの自宅はなんと1400年代に建てられたもの。改修を重ねながら保存されてきたそうで、現在は重要文化財に指定されている。明美さんの仕事は仕入れだけにとどまらず、競り落とした品の手入れや補修もこの自宅で行う。商品の状態や、その魅力をお客さんに伝えるための写真撮影にも力を入れているという。
明美さんを溺愛し、日本からさまざまな形で明美さんの仕事を応援してくれていた父も、歴史や古いものが大好きだったという。そんな父が亡くなったのは1年前。飛行機嫌いの父が初めてイギリスの娘に会いに行こうと、旅の準備を進めていた矢先だった。明美さんも楽しみにしていただけにショックは大きく、今も心の傷は癒えないようだ。
アンティークディーラーになって6年。「生涯関わっていけるようなお店になりたい。日本に渡ったイギリスのアンティークが、さらに何世代にも渡ってアンティークになっていく…そんな風にずっと大切に育てていけるものを販売していきたい」。そう目標を語る明美さんに、日本の家族から届けられたのは腕時計。父が娘に会うためにイギリスへ行くとき、はめていこうと用意していたものだという。“夫の代わりにイギリスに渡らせてやりたい”と母が託したのだ。明美さんは「私は父に溺愛されていた。無条件に愛してくれた人を失うのは本当につらい」と涙し、「これからアンティークディーラーとしてもっと大きくなれるように頑張りたい」と、亡き父に誓うのだった。