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#2528月11日(日)10:25~放送
ラオス

今回のお届け先はインドシナ半島のラオス。ジャングルを日々駆けめぐる昆虫採集のプロフェッショナル・若原弘之さん(53)と、かつて兄弟のように昆虫を追いかけた友人の草川博史さん(62)をつなぐ。草川さんは「いま彼は大学の研究者たちのために案内をしているらしい。でも元々は、大好きな蝶を獲りたい一心でラオスに行ったのだと思う。彼の現在の仕事ぶりが見てみたい」と話す。

 27年前からラオスに根を下ろし、その自然を知り尽くした若原さん。そんな彼の元には1年を通して日本の大学や研究機関に所属する虫のエキスパートたちが大勢集まってくる。彼らとチームを組み、さまざまな方法で虫を捕獲し、生態調査を行っているのだ。限られた期間にどれだけ多くの昆虫を採集できるかは、彼らを案内する若原さんの手にかかっている。こうして若原さんは年に250日以上も研究のために山に入っているという。

 昆虫の研究は生物学だけでなく、農業、科学技術、医学に至るまで、さまざまな分野で応用されている。若原さんは「昆虫が一番、種の分化が広い。微妙な環境の違いも昆虫に表れてくる。環境を知るには、まず昆虫を知ることが大切」という。そんな研究の第一歩となっているのが、若原さんら研究者たちの地道な活動なのだ。

 自らも蝶研究の第一人者である若原さんは、蝶の動きを知りくし、網を手に鮮やかな手さばきで捕獲する。幼い頃から大好きな蝶を追いかけ、中学生の頃には“獲れない蝶はない”と、すでにマニアの間で有名だった。高校生になると、昆虫の標本業者から旅費をもらい、日本各地で蝶を追いかけていた。そのため、学校へはほとんど行っていないという。「でも担任は、真面目に虫取りをしていることを理解してくれ、最終的に蝶の標本を作って学校に寄贈することで卒業させてもらった。それぐらい柔軟に受け入れてくれる教師がいたから、いま僕はこうしていられる」と若原さんはいう。

 卒業後も職にはつかず、蝶を求める人たちから出資を受け、アジア各地を転々と蝶を追いかける旅を続けた。やがて、高い値が付く貴重な蝶ばかりを追いかける毎日に疑問を抱くように。「本来自分は蝶を獲りたいだけなのに、そこにお金がまつわり、損得になる。そういう価値観が苦痛になってきた」。そして27年前、たどり着いたのが、昆虫の宝庫であるこのラオス。好きな蝶をただ夢中で追いかけていた頃の純粋な気持を思い出させてくれるこの地に根を下ろしたのだ。

 日本の枠を飛び出し、今も少年の心を持ち続けたまま虫を追う若原さんの姿に、草川さんは「すばらしい。年は取ったけど、中身はまったく変っていない。羨ましいですね」としみじみ。そんな草川さんから若原さんに届けられたのは、蝶の標本。30年前、若原さんと2人で苦労をして探した「ベニモンカラスシジミ」だ。当時、若原さんは蝶を捕ることしか興味がなく、標本を作るのはもっぱら草川さんの役目だったという。「これは君の分です。遅くなってごめん」そんなメッセージが込められていた。若原さんも当時を思い出し「絶壁の植物に卵を産むこの蝶を獲るため、一緒に命がけで崖を登った。若いころ草川さんに教えてもらったことが土台になって、今の僕がある」と、友への感謝の気持を語るのだった。