今回のお届け先はインドの大都市ムンバイ。ここでインド古典楽器の修業をするサントゥール奏者の新井孝弘さん(34)と、埼玉県に住む父・満さん(62)、母・正子さん(61)をつなぐ。父が「どうせ長続きしないだろうとインドへ送り出した」という孝弘さん。だが、インドで巨匠と呼ばれる師匠と出会って人生が変わり、気がつけばもう34歳に。だが、今なお弟子という立場で、生活は一向に安定しないという。母は「“30歳までは仕送りをしてもいい”と約束したが、それが延び延びになって今は“夫の定年までは”という話になっている」といい、心配している。
孝弘さんが演奏するサントゥールは、台形の共鳴箱に91本の鉄の弦を張った、ピアノの先祖といわれる打楽器。インドの古典音楽は1曲が1時間以上もあり、楽譜はなく、即興の要素が強いため、同じ曲でも毎回演奏が変わるという。現在、孝弘さんは“サントゥールの神様”といわれ、世界中で演奏活動をするシヴクマール・シャルマ氏(75)の弟子という立場で、その指導を受けながら、師匠の普段の身の回りの世話をしたり、コンサートツアーにも同行する。「師匠が弟子を食べさせ、弟子が師匠の世話をする。落語家の世界に似ている」と孝弘さんはいう。今いる20人ほどの弟子の中で、そこまで許されているのは孝弘さんただ1人。過去にも2人しかいなかったという。シャルマ氏も「孝弘は違う文化から来ているのに、師匠を敬う気持ちがすごい。今の時代、インドにもなかなかいない」と大きな信頼を寄せている。
高校時代にバンドでドラムを始めた孝弘さん。さまざまな打楽器に興味が広がる中、最も心を奪われたのがサントゥールだった。その後、日本の第一人者・宮下節雄氏の元で習い始め、宮下氏の師匠がシャルマ氏だった縁から、インドで直々にレッスンを受ける機会を与えられた。「運命を感じましたね。もっと真剣にやりたいと…」。28歳の時には仕事を辞めてインドへ渡り、シャルマ氏に弟子入りを懇願。その熱意が認められて修業の道に飛び込んだ。
それから6年。現在も修業中の弟子という身分のため、インドでの収入はなく、両親からの援助に頼らざるをえない状況だ。「親には申し訳ないと思うが…どうしてもやりたいことなので、“よろしくお願いします”という感じですね」と孝弘さん。そんな息子に父は「私もいつまで援助を続けられるかわからない。その後はどうするつもりなのか…」と心配は尽きない。
インドでは来生~三生先でやっと何とか演奏できるようになるといわれるサントゥール。そんな奥の深い修業の道にひたすら邁進する孝弘さんに、日本の両親から届けられたのは日本そば。父が勤める製麺会社のもので、子供の頃から食べていた思い出深い味だ。母手作りのめんつゆと共に味わい、「やっぱり美味い!」と感激の孝弘さん。「今は先生もチャンスをくださり、いろいろな人に囲まれて幸せな人生を送らせてもらっている。なるべく多くの人に僕の音楽を聴いてもらえるように頑張ります」と両親に誓うのだった。