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#2446月16日(日)10:25~放送
アメリカ/ワシントンD.C.

今回のお届け先はアメリカ・ワシントンD.C.。海外へ流出した日本の古美術品を修復する表具師の西海了さん(63)と、日本の姉たち、詩代さん(69)、寿美恵さん(67)、淑さん(65)をつなぐ。アメリカへ渡って34年。了さんのことをずっと心配し続けていたという亡き母。「弟がアメリカに行くとき、飛行機が飛び立つのをずっと見送っていた。空港のそばから離れなかった」と、姉たちは母の姿を思い出す。

 了さんは、江戸時代に描かれた浮世絵など、日本の古美術品を所有する全米のコレクターから依頼を受け、修復の仕事をしている。西洋の油絵と違い、表面にコーティングを施さないため傷みやすい日本画。収集するアメリカ人は多いが、管理方法を知らない人もまた多いのだという。

 19歳の時に京都の有名表具店に弟子入りし、重要文化財の修復ばかりを手がけていた了さん。やがて海外での仕事に心惹かれ、29歳でスミソニアン博物館に就職した。数々の名作を手がけてきたが、人間関係に疲れ、体を壊したのを機に独立。彼の技術はすべて京都時代に培われた日本伝統の技だ。

 修復の中でも、特に古い水墨画などの場合は、守るべき大切なルールがあるという。「オリジナルよりほんの少し薄めの色を乗せていく。僕は修理する職人ですから、芸術家になってはダメ」。古い作品ほど描かれた当時の面影が貴重になるもの。それゆえ、あえて修復した跡を残し、オリジナルの風合いを感じられるように仕上げるのが表具師の心得なのだという。しかし、丸3日もかけた江戸時代の浮世絵の修復代が、日本円で6万円ほど。時間計算にしたら1時間500円ほどにしかならない。了さんは「僕が修理してあげなかったら、捨てられるものがたくさんある。ひん死の重傷を負っているんです。誰かがやってあげないと…」と、名もなき作品にも愛情を注ぐ。

 ある日本美術品コレクターの家には、200点以上ものコレクションがあり、中には時価数百万円、重要文化財にもなりうるという貴重な作品も。それらは戦後、進駐軍が日本で買って帰ったり、チョコレートなど食べ物と交換して海を渡ったものも多いという。また、あるコレクターの家には、150年ほど前にキリスト教の宣教師が持ち帰ったという「洛中洛外図屏風」がある。鑑定はまだされていないが、推定2000万円。ことによっては国宝級の価値があるという作品だ。こうした作品と向き合うたびに、了さんは「僕が修理をするのを待っていると感じる」という。

 アメリカに渡ってからは仕事に追われ、帰国できたのはわずか5回。遠く離れた息子を心配しながら見守り続けた母が亡くなった時にも、葬儀には参列できなかったという。そんな了さんに姉たちから届けられたのは、母の得意料理だったいなり寿司。たまには日本のことも思い出してほしい…そんな思いが込められていた。懐かしいおふくろの味を届けてくれた姉たちに、了さんは「おいしい。これで当分、日本に帰らなくて済む。たぶんこっちに骨を埋めると思うけど…ありがとう」と感謝の気持ちを伝えるのだった。