今回のお届け先は美食の都、フランス・パリ。ここにフレンチレストランを構えるシェフの青木誠さん(44)、姉の三代子さん(50)と、東京に住む兄弟の利勝さん(49)、母・豊子さん(74)をつなぐ。実は誠さんたちの実家は、銀座にある有名寿司店「鮨 青木」で、亡き父・義氏(享年59)は名人とうたわれた伝説の職人だった。家業を継がずに海を渡り、あえて父とは違う料理の道を選んだ姉と弟。父の店を引き継いだ利勝さんは「料理は違うが僕も弟も同じ職人。どういう仕事をしているのか見てみたい」という。
姉弟の店はパリの中心地、レストランの激戦区にある。誠さんが料理のすべてを取り仕切り、三代子さんが接客と経理を担当している。誠さんが手掛けるのはオーソドックスな正統派フレンチ。素材には人一倍のこだわりを持ち、中でも魚を選ぶ目は厳しい。市場から仕入れるのではなく、自ら漁港に出向いて漁師と交渉し、新鮮なものを港から直送してもらっている。「父は、コハダや鯖なんかは下ろして塩をして酢に漬けて…何段階もある仕事を丁寧に確実にやって、やっとお金をいただけるんだ…とよく話していました」と誠さんは言う。そんな父譲りのこだわりは、下ごしらえにも表われ、骨が小さく食べにくい鳩の肉は、一度開いて骨を全部取り除き、再び針と糸で縫い合わせ、元の形に戻して料理する。「昔はありましたが、今はこんなことまでやっている店はないと思いますよ」と誠さん。手間を惜しまず提供されるクオリティーの高い料理は、舌の肥えたパリの人々を魅了し、今や予約なしでは入れないほどの人気店となっている。
誠さんは高校卒業後、ホテルのレストランに就職してフレンチの世界に飛び込み、10年後、さらなる修業のためフランスへ。2006年には父の店を手伝っていた三代子さんも海を渡り、この店をオープンさせた。日本人でありながら伝統的なフレンチを極めようと真っ向から勝負をかける誠さん。三代子さんは「弟の料理は本当においしい。人間のキャラクターがよく料理に出ている。父と同じ。やはり職人だなと思う」と、その感性を高く評価。一方、誠さんも「僕が昼の定食のためにどんなに高い食材を買おうが、姉は僕の好きなようにやらせてくれる。お互いが体の一部のよう」といい、強い信頼で支え合う姉と弟。役回りは違えど、2人の料理にかける熱い想いは同じ。それは、幼い頃から見てきた父の職人としての仕事が、2人の記憶に刻まれているからなのだ。利勝さんも「父は店でも家でも決して手を抜かなかったし、妥協をしなかった。仕事への情熱や愛情も本当にすごかった」と振り返る。
そして日本の母から届けられたのは、亡き父が愛用していたグラス。母が大切にしまっていた物を姉弟に託したのだ。“父のように良い仕事をして、これでお酒を飲んで1日の終わりを迎えて欲しい”という母の想いが込められていた。「父が家に帰ってきたら、いつもこれでビールやお酒をキューッと飲んでいたんですよね」と誠さん。幼いときに見た父の姿が甦り、2人の目に涙があふれる。父と同じように、そのグラスでビールを飲み干した誠さんは「毎日こうしておいしいビールが飲めるように、また頑張らないと」と、父へ語りかけるようにつぶやくのだった。