今回の配達先はアメリカ・ニューヨーク。着物の生地を使った現代アートに取り組むアーティストの岡田真由子さん(38)と、奈良県生駒市に住む弟の泰治さん(37)をつなぐ。京都の美大に進学し、芸術の道を志していた真由子さんだが、卒業を前に両親が病気で相次いで他界。弟は「それを機に姉は一時期、創作活動をやめてしまった。その後、何をきっかけに再び描き出したのか、なぜNYに行こうと思ったのか、ちゃんと話したことがない。ぜひ聞いてみたい」という。
祖母から受け継いだ着物の生地を生かし、羽子板などに使われる日本の“押絵”という技法を使った現代アートに取り組んでいる真由子さん。それを書や絵画、古びた木材など、さまざまな素材と自由な発想で組み合わせ、遊び心あふれる作品を生み出している。
半年前にはようやくアーティストビザを取得し、本格的に芸術家としての活動ができるようになった。展示会の他、最近では有名寿司店の店内装飾を手掛けたりと、着実に仕事も増えてきた。「NYにはチャンスが激流のように流れている。私にそれを掴む力さえあれば“行ける”と思っているのですが…」と真由子さんはいう。
両親を相次いで亡くした当時は、あまりの喪失感から絵を描く気力を失った。一切の創作活動をやめてしまったのは「それまでの人生・生活を忘れてしまいたかったのかもしれない」と真由子さん。「両親の死を受入れられず、人に言うこともできなかった。言うとその場で泣いてしまいそうで。やっと人に言えるようになったのは30歳を過ぎてからでした」。
そんな失意のどん底にいた彼女が再び歩み出すきっかけとなったのは、弟がかけてくれたある言葉だったという。「“俺は親父の仕事を継いでここで頑張る、でも姉ちゃんはここにいないほうがいいんじゃないか”と言ってくれて。それからいろんな人との出会いがあって、その結果、また絵を描こうという気になれた。弟には感謝している」と真由子さんはいう。
そんな中で5年ぶりに描いた桜の絵がコンクールで入賞。それを機に、東京・品川にある観音寺の天井画制作など、大きな仕事が舞込むようになった。再び絵筆を取った真由子さんは、描くごとに心が癒やされていくのを感じたという。そして36歳の時、本格的に絵で勝負しようとNYへ渡ったのだ。
それからまもなく3年。徐々に活動の場は広がり、アーティストとして進むべき道も見えてきた。だが心残りなのは、今のこの姿を両親に見せられなかったことだという。そんな真由子さんに弟から届けられたのは、亡き母が大切にしていた着物。たんすの奧にしまわれていたものを、弟が見つけたという。“きっとお姉ちゃんの力になるから持っていてほしい”。そんな思いが込められていた。華やかで可愛らしいその色と柄に、真由子さんは母の意外な一面を見るようで、「母と仲良く一緒に遊んだり、出かけたりする年頃になる前に亡くなってしまったので、母のことをあまりよく知らないのかもしれませんね」と、亡き母を偲んで涙をこぼすのだった。