今回の配達先はアメリカ・ニューヨーク。建国以来の歴史的建造物が数多く残るこの街で、建造物修復師として活躍する前川宗人さん(43)と、大阪・高槻市に住む父・純一さん(87)、母・契子さん(79)をつなぐ。18年前、アーティストを夢見てNYに渡り、今も仕事の傍ら、創作活動を続ける宗人さん。父は「“石工”で稼ぐことが目的ではないはず。でも芸術家としてやっていけるのか…」と息子を案じている。
数多く残された歴史的建造物を文化財として保全する活動が活発に行われているNY。宗人さんが働く会社はそんな建造物の修復を手掛けており、宗人さんはその壁や屋根に施された彫刻の修復を担当している。建築当時の状態を忠実に再現できる職人はNYでもごくわずかで、従業員の中でも彫刻に関しては、ほぼ宗人さんに任されているという。
子供の頃から物作りが大好きだった宗人さん。日本の美術大学で彫刻を学び、卒業後はアーティストを目指してNYへ留学。彫刻で生きていくと決めたものの、将来の見通しが立たず、不安を抱える日々だったという。そんな時に出会ったのが今の仕事。「自分が作ったものが、これから先ずっと残っていく。そこにやりがいを感じる。今では天職だと思う」と宗人さんはいう。
現在手掛けている現場は、1878年に完成したアメリカ最大規模のカトリック教会・セントパトリック大聖堂。177億円を投じて去年から3年がかりの大規模な修繕が行われており、装飾の修復はすべて宗人さんに任せられている。これまで数々の文化財指定建築物を手掛けてきた宗人さんは、今や修復の世界では知られた存在なのだ。
その一方で、今もアーティストの夢を抱き、創作活動を続けている。「作品はなかなか売れないので、仕事もしなければ。自分はアーティストなんだというスタンス、何かを作ろうという気持ちは常に持っていなければと思っている。でも最近は仕事の方が忙しくて…」。今では会社の社長から経営を任せたいとまで言われているが、修復の仕事が広がれば広がるほど自分の作品を作る時間がなくなり、複雑な心境だという。
昨年、宗人さんは郊外に一軒家を購入。現在は離婚後に引き取った息子・快人くん(10)と、昨年再婚したばかりの妻・直世さん(38)と3人で暮らしている。まだ両親には直世さんを紹介できていないが、現在申請中の永住権が取れれば、すぐにでも日本に帰って紹介したいという。
「自分の納得できる作品を作り続けて、いつかそれが認められるようになれば…。最終目標はアーティストとしてやっていくこと」と宗人さん。そんな宗人さんに日本の両親から届けられたのは、彼が中学生の時に作ったレリーフ。初めて彫った彫刻だ。そこには“少しずつでも自分の作品を作り続けて欲しい”という両親の思いが込められていた。宗人さんは「懐かしいです。持っていてくれたのは嬉しいですね。応援してくれている人がいるのだから、頑張らなければ」と、両親の思いに改めて気持ちを引き締めるのだった。