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#2302月24日(日)10:25~放送
イタリア/クレモナ

今回の配達先は500年続くバイオリン製作伝統の地・イタリアのクレモナ。この町で活躍する弦楽器作家の堤一朗さん(41)と、東京に住む父・忠男さん(78)、母・登茂子さん(73)をつなぐ。かつて建具職人だった父は、「私たちの住まいが工場の上にあったので、息子は私の仕事ぶりを見て育った。息子がどんな仕事をしているのか見てみたい」という。

 すべてが手作業で行われるバイオリン作り。そのボディに使われるモミの木の板を、一朗さんはノミを使って一刀一刀削っていく。作業場には小さな灯りが1つだけ。その影を確認しながら、板にゆるやかなふくらみを持たせて彫り進めるのだ。さらに、指先ほどの“豆かんな”を使い、表面をなめらかに削っていく。丸いふくよかな音にするのか、パワーのある音にするのか、板のふくらみ加減によって変わってくるのだという。そのためにも使う道具はいつもきちんと手入れされ整理されている。「刃ものをきれいに研ぐとか、道具をちゃんと使えるように“仕立てる”とか、建具職人だった父から教わったことは多い。小さい頃からいつもそばに木があり、金槌の音が日常だった。どこかで父の背中を追いかけているのかもしれない」と、一朗さんはいう。

 元々ギターが好きで、音楽の専門学校でギター作りを学んだ一朗さん。卒業制作で手がけたギターが学校のパンフレットを飾ったことが、職人の道を志すきっかけになった。さらに、より高度な技術が必要といわれるバイオリン作りに興味を持ち、28歳の時にクレモナへ。世界中から注文が来るバイオリン製作の第一人者、マエストロ・松下敏幸氏に弟子入りし、6年半基礎を学んだ。一朗さんはバイオリン作りの魅力を、「自分の作った作品が形になるだけでなく、音が奏でられ、弾き込まれるほどに成長していく楽しみがある」という。音色にこだわり抜いて作られる彼のバイオリンは「弦楽器製作国際コンクール」で2年連続金賞を受賞。その値段は1挺150万円という。

 弦楽器作りのほかにも、去年他界した弓作りの巨匠から直々にその技術を学んだ。バイオリン職人が弓まで作るのは非常にまれなことだというが、一朗さんは「演奏をして調子が悪いと、弓に問題があるのに、楽器に問題があると思っていじってしまうこともある。両方を見られる方がいい」と考える。もちろん弓作りもすべてが手作業。一朗さんが手掛ける弓は1挺100万円の値が付き、一流のバイオリニストたちに愛用されているという。さらには、人々を魅了する300年前の名器「ストラディバリウス」に使われたニスを再現し、現代に甦らせようと、その謎の解明にも挑んでいる。理想のバイオリンを追い求めるためには妥協を許さず、徹底的にこだわるのが彼の流儀なのだ。

 そんな一朗さんに届けられたのは、父手作りの「けびき」。正確に溝を彫るための道具で、卒業製作のギターを作るときに、父が一朗さんのために作ってくれたものだ。そこには“職人を志したあの時の思いを大切に頑張れ”という父の想いが込められていた。一朗さんは「懐かしいですね。あの時の情熱は今も衰えていない。今の方が仕事に対する意識は上がっているから、安心して欲しい」と、父に語りかけるのだった。