今回の配達先は芸術の都、フランス・パリ。この街で銅版画家として奮闘する平野貴子さん(41)と、埼玉県に住む父・構造さん(67)、母・政子さん(64)をつなぐ。1年だけの約束が、パリに渡ってもう8年。日本にいるときに離婚を経験した貴子さんに、母は「いつまでも若いわけではない。いいパートナーを見つけて幸せになって欲しい」、父も「孫の顔を早く見たい」と願っている。
銅の板に細やかな線を彫り込んでいく銅版画。猫や小鳥をモチーフにした繊細で柔らかなタッチが貴子さんの作品の持ち味だ。しかし、銅版画一本で生活するにはまだまだ厳しく、今はフランス政府から補助金を得ながら暮らしている。家は家賃6万円の小さなワンルーム。創作はパリ市が経営している格安の集合アトリエを借りて行っているという。
小さい頃から絵を描くことが好きだった貴子さんは、念願の美術大学に入学。卒業後は文房具のデザイン会社に就職したが、結婚を機に創作活動からは次第に遠ざかっていったという。「絵を描いたり、表現することにもう一度チャレンジしないといけないのではないかと思うようになって…。そういう自分が一番自分らしいのだと気づいた」と、離婚を決意した理由を語る。離婚後はデザイン会社に就職し、再び創作活動を開始。しかし、周りと合わせなくてはいけないという日本独特の雰囲気、息の詰まるような世間の目に苦しんだ貴子さんは、自由な生き方を受け入れてくれるパリへと渡ったのだ。33歳の時だった。
今、アーティストとして充実した日々を送りながらも、貴子さんの心にはずっと引っかかっていることがあるという。「両親は私が結婚して子供を産むことが幸せだと信じている。女性には年齢的に制限があるから、考えなくてはいけないことですが…」。銅版画家としての夢や自分らしい生き方と、両親の願いとの間で揺れ動いているのだ。そんな貴子さんには両親に紹介したい人がいるという。交際1年半になる14歳年上のフランス人男性・ジャンポールさん(55)だ。付き合っている男性がいることは、それとなく両親には伝えていたが、詳しいことはまだ何も話していないという。実は半年前から同棲に近い暮らしをしているという2人。「私は離婚の経験があるので、もし関係がうまくいかなくなったら、また親に心配をかけてしまうという思いがある。だから慎重になっている。彼との間ではまだ結婚の話は出ていない。結婚を決断してからでないと両親には会わせられない」と、貴子さんは複雑な胸の内を語る。
日本を飛び出して8年。異国の地で自分の生きる道を模索する貴子さんに、両親から届けられたのはペアグラス。“彼と2人で使ってもらいたい”と母が選んだものだ。形にとらわれなくてもいい、好きな人と幸せになって欲しい…そんな願いが込められていた。貴子さんは「味方になってくれる家族がいると思うと頑張れる。父と母がいるだけで勇気づけられる」と涙し、「彼の子供ができたらいいなとは思っている」と、心の内を明かすのだった。