今回の配達先はアメリカ・シアトル。日本伝統の切り絵の技法を用いた芸術・剪画の作家として奮闘する谷本佐智さん(42)と、兵庫県神戸市に住む母・迪子さん(70)、弟・寧さん(40)、妹・智代さん(39)をつなぐ。母は「14年前に結婚を機に渡米した娘とはずっと離れているので様子を知りたい。孫もどんな風に成長したのか…」と心配している。
剪画は、和紙をカッターで切り抜き、台紙に貼り付けて、まるで1枚の絵画のように仕上げた芸術。佐智さんが得意とするのは、さまざまな千代紙でカラフルに彩る千代紙剪画だ。何千、何万とある千代紙の中から、どんな色や模様を使えば作品が映えるのか、一番頭を悩ませたという。佐智さんは「切ることによって作る楽しさと、描いたのとは違った印象があるのが面白い」とその魅力を語る。
アメリカ人の夫、8歳と11歳の子供を持つ主婦であり、現地の日本人に書道を教えている佐智さんは、家事や育児、教室の傍ら、あるアートギャラリーの審査会に出品するための作品を作り始めた。審査に通れば作品が常設展示され、アメリカで芸術家の仲間入りができるのだ。実は本格的に作品を作るのはおよそ10年ぶりだった。
学生時代、デパートの個展で見た剪画にひと目ぼれした佐智さん。日本では数々の作品を発表し、剪画家として高い評価を受けていた。その後、結婚して渡米。出産後は子育てや家事に追われ、作品を作る時間がなくなったという。常に完璧な作品を作りたいという思いに縛られていた佐智さんは、次第に剪画から遠ざかっていった。だが子どもたちが成長し、演劇や運動など好きなことに夢中になっている姿を見るうち、“自分もそうなりたい”と強く思うようになったという。「自分の殻を破りたい」と佐智さんはそう語る。
佐智さんの父・谷本素洲さんは、日本では著名な書道家。そんな父の指導を受け、佐智さん自身も書道家として活動し、父の書道教室で師範を務めた。だが、尊敬していた父は病に倒れ、佐智さんの結婚式の2日前に他界してしまった。「亡くなる寸前まで作品を作り続けようとする姿勢はすごかった。極めようとする一生懸命なところを尊敬していた」と佐智さんは語る。
そして、佐智さんの作品は見事、アートギャラリーの審査を通過した。芸術家の道を再び歩み始めることになった佐智さん。最近は同じ芸術家の道を歩んだ父が“もし生きていたら”とよく考えるという。「父がどういう気持ちで書道家として歩んでいたのか…そう考え始めた頃に父は亡くなった。これから剪画家として頑張っていこうと思っているところなので、父と話せたら…とつくづく思いますね」。
父と同じ芸術家として歩み出した佐智さんに、日本の母から届けられたのは、父が書いた「書」。体調が悪い中、力を振り絞って書いた作品で、遺作となったものだ。佐智さんは父の作品を見つめ、「改めて自分を律されるような気持ちになります。いい決心の機会になりそうです」と涙をこぼすのだった。