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#2241月13日(日)10:25~放送
アメリカ/ボストン

 今回の配達先はアメリカ・ボストン。その南東に浮かぶナンタケット島で生まれた「世界一美しいかご」と呼ばれる伝統工芸品・ナンタケットバスケットの作家・八代江津子さん(51)と、東京に住む母・喜代子さん(80)、弟・純一さん(45)をつなぐ。この島でバスケット作りの修業を始めたとき、江津子さんは37歳。2人の幼い子供を抱えるシングルマザーだった。母は「娘は自分の好きなようにやって来た。今はただ身体が心配なだけです」と、娘の様子を案じる。

 歴代大統領夫人らセレブにも愛用されるナンタケットバスケットは、すべてが熟練の職人による完全ハンドメイドの超高級品で、1つ数百万円の値をつけるものもある。島で代々受け次がれてきたバスケット作りの技は門外不出。ボストン郊外で雑貨ショップを営みながら、職人として活動する江津子さんは、月に数回ナンタケット島に渡り、長いときには1週間ほど滞在してバスケットを作る。ここには江津子さんの師匠・アラン・リードさんがおり、彼の工房でバスケットを製作しているのだ。

 20年前、夫の仕事の関係でボストンへやってきたときは専業主婦だった江津子さん。32歳の時、初めて訪れたこの島で美しいナンタケットバスケットと出会い、心を奪われた。「どうしても作りたい」と、江津子さんは島でもとびきり美しいバスケットを作るこの道50年の職人・アランさんに弟子入りを懇願したのだ。しかしバスケット作りの技は門外不出のため、アランさんは「人には絶対に教えない」と頑なに拒否。それでも江津子さんは諦めきれず、アランさんの元に5年以上も通い、その熱意が通じてようやく37歳の時に弟子入りを認められた。

 しかしその頃、江津子さんは離婚してシングルマザーに。生活費を稼ぐためにさまざまな仕事を掛け持ちしつつ、幼い子供2人をボストンの友人に預け、島で寝泊まりしながら修業する日々が続いた。「後ろ髪を引かれましたね。子供を預けてまで自分の好きなことをして…こんなことをしていていいのかと悩みました。お金もなく、子供たちにこんな生活をさせて、自分は何をしているのかと。そんな時に母からは厳しく“自分で決めたことなんだから”と言われ、頑張らなければと思いました。日本に帰らなかったのも母のおかげです」と江津子さんは振り返る。

 技術を磨き続けて15年。今、ナンタケット島にあるバスケットミュージアムには江津子さんの作品が展示されている。その栄誉を受けたのは、アメリカ人以外の作家では江津子さんただ1人。今では、衰退しつつあるこの伝統工芸を、日本人の江津子さんがアメリカ人講師に指導するまでになった。そんな江津子さんに日本の母から届けられたのは、大好物の黒豆の煮豆。最近体調を壊して目の具合を悪くしたという江津子さんを気遣い、目によいと言われる黒豆を、彼女の渡米以来20年ぶりに作ってくれたのだ。懐かしい味に江津子さんは、「小さい頃から体に染みついた味です。やっぱり美味しい!体に気をつけて、やれるだけやりなさい…と言ってくれているのかな」と、母の想いを感じて涙をこぼすのだった。