過去の放送

#2231月6日(日)10:25~放送
カナダ/トロント

 今回の配達先は映画産業が盛んな街、カナダのトロント。さまざまな小道具を駆使して、映画やテレビドラマの映像に合った音を作り出す音のプロフェッショナル“フォーリーアーティスト”として活躍する小山吾郎さん(39)と、埼玉県に住む父・捷児さん(74)、母・洋子さん(74)をつなぐ。目が不自由な父は「息子が一生懸命やっている姿を想像している。しっかりやってくれていればいい」と吾郎さんを気遣う。

 現在、映画やドラマに効果音を付ける専門の会社に勤める吾郎さん。社内には音を作るためのあらゆる小道具がストックされ、吾郎さんはそんな小道具をさまざまに組み合わせながら、スタジオのマイクの前で映像に合わせて音を鳴らす。例えば剣の格闘シーンでは、両手に持った剣を映像に合わせてぶつけ合い、女性が歩くシーンでは、実際にハイヒールを履いて歩いて音を録音。真っ赤に焼けた剣を水につけるシーンでは、熱したフライパンに水をかけて音を作る。実は映画やドラマの撮影現場で録音されるのは主に俳優の声で、それ以外の音は最高の状態で録音されておらず、ほとんどをフォーリーアーティストが作っているのだ。「本物より良い音を出さないといけない。そこがまた面白い」と吾郎さんはこの仕事の魅力を語る。

 中学時代に見た映画「ロッキー」に魅了されてハリウッド映画に夢中になり、将来は映画の仕事に就きたいと夢見た吾郎さん。しかし父からは「バカなことを言ってるんじゃない」と一蹴された。以来、父に相談することはなく、18才のとき、映画製作を学べるカナダの大学に留学。映画監督を目指した。だが、その矢先に父が病に倒れ、視力を失ってしまった。いつか自分の作った映画を家族や友人に見せたいという夢があった吾郎さんには大きなショックだったという。そんな時に出会ったのがフォーリーアーティストという仕事だった。「ひと目見て“やりたい!”と思いましたね。これをやれば親父にも伝わる…と」と、吾郎さんは当時の思いを振り返る。そんな吾郎さんの言葉に父は「初めて聞きました。親のことを考えて自分の生き方まで変えてくれて…申し訳ないですね」と感無量の様子。

 フォーリーアーティストになって18年。父が見えなくなったこの世界を音で伝えたい…との思いで奮闘する吾郎さん。これまで数々の大作を手掛け、昨年秋にはテレビ界のアカデミー賞と呼ばれるエミー賞の音響効果賞を受賞した。「僕にとって父の存在は大きい。一番身近なヒーローであり目標です。いつか親父に頷かせないという思いは男の人なら皆あると思うが…“一生懸命やっているよ”というのは伝えたいですね」と、吾郎さんはいう。

 そんな吾郎さんに両親から届けられたのは、懐かしい埼玉の郷土料理「ひぼかわ」の材料とアルマイト鍋。8人の大家族で1つの鍋を囲んだ思い出の味だ。母からの手紙には「今も夢に見る子供たちは、いつも幼い頃の姿のままです」と、息子を想う気持ちが綴られていた。吾郎さんは「子供の頃を思い出しますね。大自然の恵まれた楽しい環境で育ててもらって…感謝しています」と涙。そして吾郎さん自ら腕を振い、幼い3人の子供たちのために「ひぼかわ鍋」を作るのだった。