今回の配達先はメキシコの首都・メキシコシティ。日本屈指の陶磁器の産地・岐阜県多治見で焼き物を学び、その経験を生かしてこの地で自作の器を制作・販売している陶芸家の奥野宏さん(28)と、岐阜県に住む父・正興さん(61)、母・真智子さん(60)をつなぐ。4年前、宏さんが日本を発つ直前に父がガンであることが判明。悩んだ末の渡航だった。現在も月に1回検査を続ける父は「私が生きている間にこっちに戻ってきて安心させてもらいたい」と望んでいるのだが…。
宏さんは現在、メキシコの友人3人と共に陶芸集団として活動している。器は宏さんが作り、画家である友人たちがそこに絵を描くという陶芸と絵画のコラボレーションだ。そんな作品を作る傍ら、日本料理のレストランなどに売り込むための小鉢や酒器なども制作している。
大学時代に陶磁器に魅了され、卒業後、地元・岐阜県の「多治見市陶磁器意匠研究所」で本格的に陶芸を学んだ宏さん。その後、日本で活動を始めたが、次第に窮屈さを感じるように。そんなときメキシコの陶芸学校を紹介され、“環境を変えるチャンス”と感じ、メキシコへ渡った。当初1年の留学の予定が、もう4年に。まだ陶芸だけでは生活が成り立たず、週に3日、日本料理店でウエイターをしながら生計を立てているのが現状だ。
パートナーの菜津美さん(29)は、宏さんと同じくメキシコでの成功を夢見て壁画家として活動している。最近、ようやく2人の収入を合わせれば生活が成り立つようになったという。両親が気になる結婚については「今は考えていない。まずはやりたいことをやって、落ち着いたら、そこから考えたい」と宏さん。菜津美さんも「形にこだわることはない」とマイペースだ。
メキシコではここ数年、日本料理店が増えており、宏さんはそのチャンスを生かしたいと考えている。彼の陶芸家としてのこだわりは、アート作品ではなく実際に使ってもらえる器を作ること。最近は宏さんの評判を聞きつけ、少しずつ注文も増えてきているという。そんな宏さんの姿に、父は「最初は食べるのも精一杯かなと思っていたが、ちゃんと生活出来ているようで安心した」と話す。
メキシコで陶芸家としての可能性が広がってきた今、宏さんの気がかりはやはり父のこと。「今はメキシコで始めたことがまだ中途半端なので、こちらで良いものを作って多くの人に見てもらいたい」と宏さん。日本に帰る決断はなかなかできないものの、「父親のことは心配なので、将来的には仕事を絡めて日本に年に2,3ヵ月は帰れるスパンで仕事ができたら…」という。
そんな宏さんに届けられたのはふんどし。学生時代からふんどしを愛用していた宏さんだが、こちらに持ってきた物ははきつぶしてしまったとか。母が縫い上げてくれた真新しいふんどしに宏さんは大喜びだ。添えられていた父の手紙には「私のガンは毎月検査をしているので大丈夫ですから安心してください。ことわざにあるように、ふんどしを締め直して頑張ってください」と綴られていた。さっそく身につけた宏さんは、「ふんどしを締め直して頑張ります!」と両親に応えるのだった。