今回のお届け先はイタリア・ヴェネツィア。夫と共に伝統工芸品のヴェネツィアングラスの工房を営む井上佳奈枝さん(46)と、京都に住む父・邦夫さん(75)、母・紀久子さん(71)をつなぐ。
ごく普通のOLだった佳奈枝さんは30歳の時、旅行で訪れたイタリアでヴェネツィアングラスと出会い、その魅力の虜に。その後、日本で個展を開いていたヴェネツィアングラス職人のピーノさん(61)と知り合い、41歳で結婚。イタリアで共に生きることを決め、自身も夫のもとでガラス職人の道を歩み始めた。父は「最初はイタリアで馴染めるのか心配で、反対した」といい、母も「京都から離れることを嫌がっていた子なのに、何でイタリア?と思った。それでも“信じられる男性と出会えて良かった”と考えるようにしようと…」と、胸中は複雑だったよう。佳奈枝さんは「両親に結婚してイタリアに渡ることを伝えたとき、父は“20歳そこそこの娘なら反対したが、40近くにもなった娘が考えたこと。自分の人生は自分で決めたらいいんじゃないか”と言ってくれた。もちろん寂しかったとは思います…」と、当時を振り返る。
普通のOLから一転、ピーノさんの下でガラス職人として歩み始めた佳奈枝さん。2人が経営する「ガラス工房 ラルベロ」は、指輪やペンダントなどのアクセサリー作りでヴェネツィア一の呼び声も高い工房だ。その特徴は、隣り合う鮮やかな色が複雑に溶け合ったデザインにある。材料となるのは「ミッレフィオリ(千の花)」と呼ばれる、金太郎飴のようにどこを切っても小さな花柄が現れる色とりどりのガラス棒。これを短く切って並べ、窯で焼くことでガラスが溶け合い、複雑なデザインが生まれるのだ。
この道50年のピーノさんは、緻密な計算と卓越した感性でヴェネツィア随一のマエストロと言われている。佳奈枝さんがピーノさんの工房に入って5年。まだまだ修業の身で、ガラス棒をカットしたり、デザインを考えながら並べたりという作業はできるが、勘と経験が必要な窯入れ作業はまだやらせてもらえないという。自分達夫婦を「師匠と弟子のような関係」という佳奈枝さん。「早く窯入れができるようになりたい。彼の技術をどんどん盗んでいかないと。何年かかるかわかりませんが、彼がやっていることをすべて出来るようになりたい」と、職人としての目標を語る。
そんな佳奈枝さんに日本の両親から届けられたのは梅酒。28年前に母と妹と佳奈枝さんが3人で漬けたものだ。母が娘の嫁入りに持たせようと思いながら、ずっと渡せないでいたものだという。添えられた手紙には、遠いイタリアにいる佳奈枝さんに何の手助けも出来ないけれど、京都が懐かしくなったらこれを“思い出草”に飲んでほしい…と綴られていた。佳奈枝さんは「こういうことは面と向かって言わない母なのに…。3人で梅酒を一生懸命漬けたことを思い出しました。ありがとう、お母さん」と母の想いに涙。ピーノさんと共に懐かしい梅酒を味わうのだった。