今回の配達先はイギリス。各地を移動しながら公演を行うイギリストップクラスのサーカス団「ジッポーズ・サーカス」で、ステージを彩るダンサーとして奮闘する藤村祐子さん(27)と、神奈川県に住む父・恭司さん(59)、母・智恵さん(54)をつなぐ。3歳からダンスを始め、高校時代には数々のコンクールで受賞するまでになった祐子さんは、卒業後、本格的にダンスを学びたいとイギリスへダンス留学。母は「サーカス団のダンサーになると聞いたときは、“玉乗りでもするのか?”と驚いた。向こうで彼氏が出来たらしいのですが…どんな人なのか知りたい」と心配する。
「ジッポーズ・サーカス」で祐子さんが担当するのは、場面転換のタイミングでステージを盛り上げるダンサーの1人。だがダンスだけでなく、ショーのアシスタントやチケット売り、プログラム販売など裏方までこなす。サーカスは約一週間おきに町を移動するため、70名の団員たちは全員でキャラバン生活。移動日にはパフォーマーやスタッフ総出でテントの解体も行うという。
実は祐子さん、自分がサーカスに入団するとは夢にも思っていなかった。イギリスのダンススクールを卒業した後は、ダンスカンパニーなどダンスだけの団体で踊ることを目指し、ヨーロッパ中のオーディションを受けたが、ことごとく落ち、思うような仕事を見つけることができなかったのだ。そんな時、ふと目にしたのがサーカス団のダンサー募集の広告だった。「最初はダンサーのつもりで入ったのですが…実は契約書にはダンサーとは書かれてなくて、“何でもやる”って感じで(笑)。思うような仕事ではなかったけど、ステージでパフォーマンスをすることには代わりはないですから。フィナーレでお客さんにスタンディングオベーションをしてもらえるのはうれしいし、やりがいを感じます」と祐子さん。過酷な仕事にくじけそうになったこともあるが、心の支えとなったのは母との何気ない会話だったという。「弱音を吐くのではなく、ただ母の声を聞くと安心した。話していると元気をもらえた」と振り返る。
一方、両親が気になっていた祐子さんの恋人は、交際半年になるルーマニア人のニコラスさん(42)。彼はサーカス団員の1人で、テント設営の最高責任者だという。ニコラスさんは祐子さんの両親に「いつかお会いできるのを楽しみにしています」とメッセージを送るが、母は2人の年齢差が気になるようで、心境は少々複雑そう。だが、元気にやっている娘の姿に「日本にいるときは、ダンス以外のことにはダラダラしていたけど、思った以上に一生懸命にやっていてびっくりした」と感心する。
日本を離れて9年。ダンサーとしてステージを盛り立てながら、裏方作業もこなす祐子さん。パフォーマンスの幅が広がれば、重要な役を任せてもらうチャンスも増えるため、日々トレーニングも欠かさない。「いつかソロで踊れるようになりたい」。スポットライトを浴びて踊る日を夢見て奮闘する祐子さんに届けられたのは、父が手作りしたフルーツケーキ。先日誕生日を迎えた祐子さんへのプレゼントだ。ケーキ作りが趣味の父は、家族の記念日には必ずケーキを焼いてくれたという。そしてもう一つのお届け物は、祐子さんがずっと欲しがっていた家族写真。さっそく部屋に飾った祐子さんは「帰ってくる場所がある感じがします」といって、涙をこぼすのだった。