今回の配達先はスイス・ゾロトゥルン。3代続く農場の長男に嫁いで10年になる土居内タンレル愛子さん(41)と、大阪・堺市に住む父・弘陸さん(70)、母・章子さん(69)をつなぐ。東京ドームおよそ10個分という広大な農場を夫・ベアットさん(39)と営む傍ら、看護師の仕事を掛け持ちして、多忙な日々を送る愛子さん。41歳にして初めて子供を授かり、現在妊娠5ヵ月になる。両親は「赤ちゃんが生まれるのは楽しみだが、年齢が年齢なので無事に生まれてくれたらいいのですが…」と心配している。
愛子さん夫婦は3年前、ベアットさんの両親から農場のすべてを引き継ぎ、現在は5人の従業員と共に乳牛60頭、豚150頭を飼育している。豚舎の掃除や餌やりなどが愛子さんの主な仕事だ。そしてもう一つの仕事が地元の老人介護専門病院での看護の仕事。週に3日勤務し、長期入院中の患者15人を担当している。
大学卒業後、一度は就職した愛子さんだったが、27歳の時、"自分を見つめ直そう"と1年間ニュージーランドへ。以来、海外での生活を夢見るようになったという。「その夢を実現するためにどう生計を立てていけばいいかと考え、看護師は悪くないと思った。思い込んだら突っ走るだけでした」。なんと愛子さんは28歳で看護学校に飛び込み、31歳で看護師免許を取得。だがその直後、ニュージーランドで知り合っていたベアットさんと結婚し、スイスへ嫁ぐことに。せっかく取得した看護師の資格を生かせなくなったことが心残りだったという。「結婚して家にいると、なんでも夫や義父母に頼ってしまう。スイスで独り立ち出来るようになるためにも、看護師の資格を生かして外に出て働こうと思った」と愛子さんは振り返る。
結婚して10年。実はなかなか子宝に恵まれず、8年もの間、不妊治療を続けてきた愛子さん夫婦。何度挑戦しても良い結果が出ず、つらい思いもしたという。「先生も"もう辞めたら?"という感じで…。治療は大きなストレスになるし、体の負担も大きい。お金もかかります。夫が落ち込むのを見るのもつらかった。でも、やりきってダメだったら自分で納得できると思った。最後はそのためだけにやっていた感じです」。愛子さんは当時の気持ちをそう語る。
不妊治療中は、同じ敷地内に住む義父母によく相談に乗ってもらっていたというが、日本の両親には治療していることさえ知らせなかったという。「不妊治療をしていると知ったら、結果はどうだったか、費用はどうしているのかと、逆に心配をかけてしまう。親だからこそ言いづらかった」と愛子さんはいう。
そうして待望の子宝に恵まれた愛子さん。日本の両親から届けられたのは、妊娠5ヶ月を迎えた戌の日に、妊婦が腹に巻いて安産を祈願するという腹帯。無事に元気な赤ちゃんを産んで欲しい…そんな両親の願いが込められていた。愛子さんは「ずっと自分の好きなことをしてきて、不妊治療も自分が納得のいくまでやった。そうして妊娠できたことを両親に喜んでもらえて…うれしいですね」と言って、涙をこぼすのだった。