今回の配達先はカナダ・ホワイトホース。極北の大地に生きる野生動物たちを撮影するプロの写真家・上村知弘さん(34)と、神戸市に住む父・馨さん(66)、母・フジコさん(64)をつなぐ。両親は「息子はいろいろあって自分の生きる道を探していた。日本にいるときはまったく写真をやっていなかったので、写真家になるとは想像もしていなかった」という。
上村さんが撮影するのは、子育てをする白頭鷲や、エサのタンポポをはむグリズリー、川を渡るヘラジカなど、タイガとツンドラの原野に生きる野生動物たちの生き生きとした姿。中でも一番興味を持って追いかけているのが、険しい山岳地帯の急峻な岩山に生息するドールシープという野生の羊だ。知弘さんは望遠鏡を使って山の頂を探し、ドールシープの姿を見つけたら、そのポイントに狙いを定めて追いかける。食糧やテントなど20キロもの荷物を背負って険しい道を歩き、山を越えてドールシープの群を追う。丸一日がかりで追いかけた末、ようやく訪れたたった一度のシャッターチャンスに、知弘さんは満足げだ。「キャンプ道具を持ってじっくり山に登り、会えても会えなくても、その時間をゆっくりと過ごす。その延長線上に写真がありたい。それが、僕が写真を撮る上で一番大切にしていること。その結果、何かが写真に表れてくれていれば…」。そんな知弘さんの写真は現在、小さな町のカフェ兼ギャラリーで展示販売されているが、「いつか撮りためたドールシープの写真を写真集にまとめたい」と知弘さんは夢を語る。そんな姿を見た両親は「活き活きしていて、ここがこの子の住むべき所なんだと実感した」と、安心したようだ。
現在、知弘さんは妻・タミーさん(43)と森の中の一角を借り、テントの住居・ゲルを建てて住んでいる。写真だけではまだ生計が成り立たず、2人は敷地を借りている大家さんが飼っている犬ぞりの犬をトレーニングし、その代わりに土地を無料で貸してもらっているのだ。家には水道もガスも電気も通っていないが、自然の中の暮らしが2人はとても気に入っているという。そんな知弘さんだが、ここにたどり着くまでには紆余曲折があったという
10代の頃から学校生活に窮屈さ感じていた知弘さんは、高校卒業後すぐに日本を脱出。バッグ1つで世界中を旅し、8年前にカナダの大自然と出会った。「初めて自分にぴったり合うものが見つかった感じがした。ここしかないと思った」と知弘さん。4年前には、アルバイト先のユースホステルで出会ったタミーさんと結婚。共にこの地で生きていくことを決めたという。
小さい頃から父親に釣りに連れて行ってもらった経験から、自然が好きになった知弘さん。今も、お気に入りの湖に出かけてカヤックで漕ぎ出し、釣りをするのが何よりの楽しみだという。そうして体感した大自然の魅力や素晴らしさを、写真という表現で多くの人に伝えていきたいと知弘さんはいう。
そんな知弘さんに両親から届けられたのは葉っぱの化石。小学生の時、家族で行った山で知弘さんが見つけたものだという。両親がその思い出にと大切に取っておいたのだ。添えられた手紙には、共に自然の中で過ごした思い出は“家族の絆”としてずっと心の中にあること、そしてその“太い絆”を大切にしながら、カナダで新たな絆を作ってほしいとの思いが綴られていた。知弘さんは「両親の愛情を感じます。離れてはいるけど、今度は両親に返していく番だなと思います」としみじみと語るのだった。