今回の配達先はカナダ・ブリティッシュコロンビア州アボッツフォード。ログハウスの柱などを彫る彫刻家の河野守行さん(45)と、奈良県に住む父・守道さん(71)、母・多津子さん(71)をつなぐ。18年前に勤めていた会社を辞め、ログハウスビルダーを目指してカナダへ渡り、その後、彫刻家に転身した守行さん。母は「生活は成り立っているのか…」、父も「儲かる仕事ではないと思う。一流企業に勤めて安心していたのに…」と、その転身には今も複雑な思いのようだ。
守行さんの彫刻は、ログハウスの柱や梁に直接彫ることが多く、一本の丸太から彫り出したアライグマや、ログハウスのシンボルとして飾られるタカのモニュメントなど、主に動物がモチーフになっており、愛らしい表情とユーモアが特徴だ。動物のリアルな表情や仕草は、資料を徹底的に調べて作り上げるという。チェーンソーからノミまで、さまざまな道具を駆使して木を彫り、微妙な表情などは細かな細工が出来るマイクロカーバーという機械を使って、何百種類ものヘッドを付け替えながら丁寧に彫り出していく。守行さんはこのような彫刻の技術をすべて独学で身につけたという。
18年前、仕事を求めてカナダを放浪していた守行さんは、ある会社にログハウスビルダーとして雇ってもらい、木工の技術を一から教えてもらったという。「現場には4~5mの廃材の山があった。もったいないのでいくつか持って帰り、遊びながら彫刻刀で彫ってみると、これは面白い!と…」。そんなきっかけから27歳にして彫刻に目覚めた守行さん。以来、独学ながらおよそ400点の作品を彫り、カナダ住宅建築協会のインテリア賞を受賞するまでになった。
今でも大きな作品を作る際は、当時勤めていた会社の機材やスペースを無償で貸してもらっているという。恩人である社長は「ログハウスを建てるお客に彼の彫刻を見せて勧めているんです。アート作品で生計を立てるのは難しいですがが、こうして注文が増えれば彼も家族を養うことができますから」と話す。守行さんは「ずっと応援してもらって、本当にありがたい」と社長に感謝する。
守行さんの家族は奥さんの綾子さん(38)と3人の子供たち。休日に家族で出かける際は、目的地に行く途中、奥さんが協力して守行さんの作品のカタログを一軒一軒ポストに投函していくという。一種の営業だ。経済的にはまだまだ厳しい状況で、そんな家族の支えがあってこそ大好きな彫刻の仕事が出来ていると守行さんは語る。
彫刻一筋に生きる守行さんだが、気がかりなのは日本の両親のこと。父は定年後、趣味を生かして庭師の資格を取得し、パラグアイやウルグアイでJICAの指導員として精力的に活動していたが、帰国後、病で体を壊してしまった。守行さんは「今は回復しましたが、やはり体が心配。彫刻もようやく軌道に乗り始めたところ。もうちょっと元気でいてもらって、仕事の見通しがつくようになれば日本とカナダを行き来したい」と思いを明かす。
そんな守行さんに届けられたのは、父が愛用してきた剪定ばさみ。庭師として働いていた父が大切に使っていたものだ。添えられた手紙には、父がついに大好きだった庭師の仕事から身を引く決意をしたことが綴られていた。それは父の体を心配する守行さんを安心させるためだった。“これからも自分の思う道をのびのびと進んで欲しい。邁進せよ、守行くん!”という父の言葉に涙する守行さん。「庭師の仕事は一生やっていたかったと思います。でも、みんなのことを考えてくれたんですね。気持ちはいただきました。家宝にします」と、父の想いを噛みしめるのだった。