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#1965月27日(日)10:25~放送
ドイツ/ブラウエン

 今回の配達先はチェコとの国境近くに位置するドイツ・プラウエン。ここで水墨画家として奮闘する堀ノ内夏子さん(28)と、茨城県に住む父・省一さん(56)、母・真智子さん(59)をつなぐ。4年前、日本で知り合ったチェコ人男性と結婚し、彼の仕事先であるドイツに渡った夏子さん。父は「私たちの反対を押し切り、なんでヨーロッパなんかへ…という思いだった。そばに置いておきたかった」と振り返る。

 夏子さんはその後、一人息子・テオくんをもうけたものの、結婚生活は破綻し離婚。悩んだ末、裕福だったチェコの夫の実家に2歳だったテオくんを預けることに。「母子家庭でやっていくことも出来なくはなかったけど、もっと自由に何でも出来る環境を与えてあげ、祖父母に愛されて育つほうがいいと思った」と、息子を手放す決意をした理由を語る。今は月に一度、息子に会いに行くのが何よりの楽しみという。「テオちゃんのそばにいたい、頻繁に会いたいからここに留まっている」。夏子さんは切ない気持ちを明かす。

 そんな夏子さんがひとりドイツで生活するために始めたのが水墨画だった。大学時代に水墨画を学び、ドイツに渡ってからも独学で描き続けていたが、最近ようやく展示会が開けるまでになった。墨や顔彩を使い、独特の筆遣いで表現する水墨画の技法は思わぬ評判を呼び、地元の新聞にも取り上げられるほどに。今はまだ収入が月10万円ほどにしかならず生活は厳しいというが、夏子さんは水墨画だけに留まらず、独創的な絵を精力的に制作し、少しずつ評価を得ている。

 最愛の息子テオくんと1ヵ月ぶりに会う日の前日。夏子さんはテオくんにプレゼントするためのショベルカーの絵を描いていた。「お金で買えるものは義父母がなんでも買ってくれる。私からはお金で買えないモノを贈りたい」と夏子さん。そんな娘の姿に母は「子供が可愛い盛りに…切ないでしょうね」と胸を痛める。

 3時間かけてチェコのプラハに出向き、テオくんと1ヵ月ぶりに対面した夏子さんは、テオくんを前に言葉が詰まる。実はテオくんはチェコ語しか分らず、夏子さんはまだチェコ語がうまく話せないのだ。そのため会うときは元夫が通訳も兼ね、必ずついて来るという。テオくんは夏子さんの絵のプレゼントを喜んでくれたが、楽しい時間はあっという間に過ぎしまう。テオくんが乗り込んだ電車が去っていくのを、夏子さんはいつまでもホームで見送っていた。ドイツでようやく生活の基盤ができつつある夏子さんは「これまで金銭的に引っ越せなかったが、いずれは息子のそばに住みたい。オーストリアならドイツ語でもやっていけるし、1時間ほどで息子に会いに行ける。息子とは離れたくない」という。

 日本を出てから一度も両親の元に帰らず、離ればなれになった息子に会うためドイツに留まる夏子さん。そんな娘に母が送ったのは一枚の着物。祖母が母のために仕立てたもので、節目節目に着ていた母にとって愛着のある品だという。母がいつか夏子さんに渡そうと大切にしまっていたのだ。添えられた手紙には「日本が恋しくなったり、つらいことがあったら、これを着てまた勇気を出して立ち向かってください」と綴られていた。夏子さんは母の着物に手を通し、「日本を飛び出した親不孝者なのに…嬉しいですね。次の展覧会にはこれを着ます」と、顔をほころばせるのだった。