過去の放送

#1955月20日(日)10:25~放送
ケニア共和国/ナイロビ

 今回の配達先はケニア共和国・ナイロビ。国際農業研究員の森元泰行さん(45)と、東京に住む父・洋満さん(79)、母・廣幸さん(80)をつなぐ。大学の農学部を卒業後、17年前にケニアへ渡り、貧困国の農業開発のため、世界各地の農作物を研究する国際植物遺伝資源研究所・ナイロビ支部(本部はイタリア・ローマ)の研究員となった泰行さん。両親は「どんな仕事をしているのかよくわからない。衛生面や治安も心配」と話す。

 古来よりアフリカの大地に自生する伝統作物と呼ばれる植物は、10年ほど前まで雑草同然に扱われ、市場で流通することはなかったという。泰行さんたちは、この国の大地に根ざした貴重な資源とその価値を現地の人たちに伝え、見直してもらうべく活動している。研究の中心は農村部に直接出向いてのフィールド調査。地元農業の現状を把握するため、市場ではどこからどんな作物が来ているのか、いくらで取り引きされているかなどを細かく調査する。また村の畑では栽培を推奨してきた伝統野菜の生育状態を定期的に調べたり、昔から地域の人たちが利用してきた植物を採取し、どんな使われ方をされているかなどもチェックする。「日本とはまったく植生が違うから、日本で勉強してきた植物の知識はあまり役に立たない。現地の人の協力がないと研究はできないですね」と泰行さん。そんな地道な活動の結果、伝統作物を育てる農家が飛躍的に増え、今では彼らの大切な収入源になっているという。

 活動の場は農村だけではない。ナイロビへ戻るとスーパーマーケットでお客さんを捕まえ、伝統作物の栄養価の高さなどをPRして回る。「伝統野菜のマーケットがないと農家の人は作らない。大きなスーパーが伝統野菜を扱ってくれることが品質を上げることになり、価値を高めることにつながる。こういう活動も人々の意識を変えるためには重要なんです」と泰行さんは語る。

 途上国の人々の役に立ちたいとケニアに渡って17年。泰行さんは「ケニアで感じることは、みんな“生きることに必死”だということ。過酷な環境の中で生きるために一番大切なのは人とのつながで、人と関係を持たないと生きていけないんです。そういう人々からパワーをもらっている気がします。そして父からは2つ選択肢があれば、つらい道を選べと言われてきた。今でもそれは常に考えていますね」と、自身を支えているものを明かす。

 現在は妻と幼い2人の娘と暮らす泰行さん。最近改めて家族の大切さを感じるようになったという。「次の世代の子供たちのためにも、今ある資源を守り、伝えていかなければいけない。そこがやりがいにもなっている」と泰行さんは語る。仕事も家庭も充実した泰行さんだが、唯一の気がかりは日本にいる高齢の両親のこと。「元気で長生きしてもらいたい。元気な顔を見るだけで、僕はこっちで安心して生活していける」と泰行さんは両親を想う。

 消えゆく農作物の保護に人生を捧げる息子に、彫刻家である父から届けられたのは木彫りの像。モチーフになっているのはアフリカに古くから伝わる守り神だ。「ケニアで築き上げた大切なものを守っていってほしい」という父の想いが込められていた。泰行さんは「嬉しいですね。僕にとって大切なのは仕事だし家族。それを守り抜く人になりなさいということですね。両親から受けた恩を両親に返すのももちろんですが、今度は僕が父親として子供たちに伝えていきたい」としみじみ語るのだった。