ファッションの流行をリードする街、イギリス・ロンドンで活動するストリートフォトグラファーの藤原悠さん(29)と、神戸に住む父・保之さん(65)、母・明子さん(65)をつなぐ。街ゆくスタイリッシュな人々を探してひたすら声をかけ、1日に何百枚もの写真を撮り続ける悠さん。現在「ザ・スタイルスニップ」というファッション関係のインターネットサイトと契約をし、毎日ストリート写真をアップすることで1ヵ月8万円ほどの収入を得ている。「この仕事は一期一会。情景やファッション、空気感…もう一回同じには絶対撮れない。そのライブ感が面白い」と悠さんはその魅力を語る。今はまだストリート写真だけで生計が成り立たず、週に3日、自転車ショップで店長を務めているが、いずれカメラ一本で生活することを目指している。
実は悠さんの父は一線で活躍するカメラマンで、母は雑誌の編集長。悠さんは子供の頃からカメラがおもちゃ代わりで、次第に写真にのめり込んでいったという。だが高校卒業後はグラフィックデザインを学ぶためロンドンへ留学。悠さんは「二代目とか、親の七光りと見られるのが嫌だった。自分で一からやりたかった」と当時の想いを語る。その後ロンドンでデザインの仕事をしながら写真を撮り続けていたが、どちらの道で行くのかずっと悩んでいたという。「ある時、写真の仕事の依頼があり、やり始めてみると、写真を撮ることが自分を表現するのに一番向いていることが分かった」と振り返る。
悠さんは子供の頃から父に「カメラマンにはなるな」と言われていたという。カメラで生計を立てる厳しさを誰より知っているからだ。そんな父から5年前、年代物のライカM6が贈られた。「僕がちゃんとした写真を撮れるようになった証としてもらったものです。嬉しかったですね。父は“カメラマンにはなるな”とは言っていましたが、本当はなって欲しかったのかもしれません」と悠さんは語る。
そんな悠さんの言葉に父は「見破られてましたね」と本音を明かす。そして悠さんの名刺に入れられていた“8and2”の文字を見て、「私の父、悠の祖父が昔、“仕事は段取り8分、仕事2分やぞ”とよく言っていました。その言葉を入れているとは…」と感激の涙をこぼす。また悠さんに贈ったライカは、父がずっと悠さんを撮り続けていたものだそうで、「あれをあげてから彼の写真が変った。味わいがあり、人間味が出る写真を撮るようになった」としみじみ語る。
パリで開催されるパリコレにやってきた悠さん。パリコレではショーの会場から会場へ移動するトップモデルのストリートスナップを撮影できるとあって、世界中からストリートフォトグラファーが集まるのだ。以前「アニエスベー」のショップで働いていたことがある悠さんは、今回そのショーの撮影を特別に許可された。そしてショー後のパーティー会場では、アニエスベー本人から「自分の感性を信じて写真を撮りなさい」と言葉をもらい感激。「もっと自分の技術、創造力を高め、とにかく面白いものを求め続けることが重要だと思う」と改めて写真への想いを強くするのだった。
「父を超えたい」。そんな思いで挑戦し続ける悠さんに、両親から届けられたのはフォトアルバム。父が撮った悠さんが幼い頃の成長記録を、母が編集したものだ。悠さんの生き生きとした表情を切り取ったスナップ写真は、悠さんが初めて見るものばかり。悠さんは「すごく愛されてますね。しっかりやっていくので心配しないでください」と両親に語りかけるのだった。