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#1904月8日(日)10:25~放送
タイ・ソボムヘッド村

 今回の配達先はタイ・オムコイ郡ソボムヘッド村。山岳地帯のカレン族共に生きるノンフィクション作家の吉田清さん(59)と、福岡に住む姉・礼子さん(62)、姪・利衣子さん(30)をつなぐ。7年前、日本での生活を捨て、狩猟の民・カレン族の女性と結婚して自給自足の暮らしをおくる弟に、姉は「あまり若くないし…いつまでタイにいるつもりなのか」、姪も「どういう人たちとどんな暮らしをしているのか知りたい」と心配している。

 畑を耕し、野山で動物を狩り、川で魚を捕るという自給自足の生活を営むカレン族。奥さんのラーさん(43)一家とそんな暮らしを続けてもう5年になる清さん。かつては日本で結婚していたが、最愛の妻が事故で車椅子生活となり、清さんは仕事をしながら20年も介護を続けたという。そんな妻が8年前に大病を患って他界。清さんは絶望のあまり自らの命を絶とうと思い詰めたこともあったという。そんな時に訪れたタイで出会ったのが、同じように夫を亡くしたラーさんだった。家族のために野山や川を駆け回り、逞しく獲物を捕らえるラーさん。「出会ったときは“元気がいいなぁ”という印象でした。自由奔放で、生きたいように生きている感じで…」と清さん。太陽のように明るく強く生きるラーさんに救われたという。彼女の人柄に惹かれた清さんは、ラーさんの子供たちも引き受けて、共に人生を歩むことに決めたのだ。自給自足の生活には、「命をありがたくいただいて、こちらの命を養うということ。とても貴重な日々だと思います」。自然の恵みと共に生きるカレン族と同じ喜びを、今では清さんも感じるようになったという。

 3人兄弟の末っ子に生まれた清さん。6歳の時に父が亡くなり、母は駄菓子屋を営みながら女手一つで3人の子供を育て上げた。そんな母が高齢で寝たきりになってから、ずっとその世話をしてきたのは3歳年上の姉・礼子さんだった。「いろんなことを任せっきりで飛び出し、ただ申し訳なくてつらい…」と清さんは言う。かつては日本でビジネス雑誌のライターとして活躍し、本も出版したことがある清さん。この春、タイでの暮らしを綴ってきた文章をまとめ、日本で一冊の本を出すことになった。タイトルは『「遺された者こそ喰らえ」とトォン師は言った』。ラーさんを通じて知り合ったお坊さんの言葉で、“最愛の人が亡くなって悲しみのどん底にいる時でも腹は減る。それは先に逝った者が遺された者に『生きなさい、そのためにとにかく食べなさい』と言っているのだ”という。「あの時、かみさんは僕に“生きなさい”と言っていたのだと思う」と、清さんは振り返る。

 タイでの清さんの姿に姉は「考えられない生活ですが、ラーさんと出会い、ここで生きると決めた理由が分かる気がします」と少し安心した様子。そんな姉が清さんに届けたのは、母の駄菓子屋にいつも並んでいたお菓子「雀の卵」。姉と2人でこっそりつまみ食いした思い出の味だ。“あなたの故郷には応援している家族がいることを忘れないで”…そんな想いが込められていた。「母は末っ子の清に一番想いがあったと思う」という姉。だがその母は、清さんの海外取材のあとに他界してしまった。「姉ちゃん、心配と面倒ばかりかけてごめんね。何も出来なくて心苦しいけど、いつも姉ちゃんとおふくろのことはここ(胸と頭)に刻み込んでいるから…」。涙を流しながら清さんはそう語るのだった。