全米プロバスケットボールリーグNBAを目指して半年前にアメリカへ渡った高校生の辻隆太さん(17)と、大阪・吹田市に住む父・正明さん(50)、母・智恵さん(48)をつなぐ。「留学は大学に行ってから考えた方がいいんじゃないかと思っていたが…すべて自分で手配してアメリカに行ってしまった」と両親。今は本人から「楽しい」という報告しかないというが、本当にそうなのかと心配している。
幼い頃からバスケットボールで頭角を現わした隆太さんは、日本屈指の強豪校に進学。順風満帆のバスケット人生を送っていたが、家族旅行先で初めて観戦したNBAに大きな衝撃を受けた。「一番の目標がNBAでプレーすることだった。そこに近い舞台に挑戦して早くアメリカ人の上手さ、強さを感じたかった」。隆太さんは留学の準備をすべて自分で行い、両親を説得して高校を休学。アメリカへと渡った。
現在、ソルトレイクシティのワン・ディエゴ・カトリック高校に通う隆太さん。彼が所属するバスケットボール部はユタ州のチャンピオンを争う強豪チームで、1~4軍まであり、60人いる部員の中で1軍はたった16名だけ。隆太さんは昨年9月の入部テストで見事合格し、ただ一人のアジア人選手として1軍で奮闘している。
身長176cmの隆太さんは日本の高校生としては決して小さくはないが、ここでは190cm以上の選手がほとんど。「日本では負ける気がしなかった」という隆太さんも、基礎体力すら及ばないことを痛感させられたという。慣れない英語の指示が飛び交うコートで、なんとか厳しい練習に食らいついていくのに必死。「もっと練習しないと、自分のアピール部分がなくなる」と隆太さんは焦る。
そんな中、ユタ州1位を争うライバル校と、学校同士の意地と威信をかけた伝統の一戦を迎えた。隆太さんはベンチからのスタートだ。点差を付けられたゲーム後半、監督は試合の流れを変えるため、チーム一のスピードを持つ隆太さんを投入するが、出番はわずか十数秒だった。しかも試合は完敗。隆太さんは「早く皆から認められる存在になりたい」と、悔しさを滲ませた。
アメリカに来て半年。慣れない環境の中で、今まで経験したことのなかった高い壁に無我夢中で立ち向かう隆太さんに、日本の両親から届けられたのは手編みの手袋。冬の寒さが厳しいソルトレイクシティで、“バスケットトボール選手として大切な手をいたわってほしい”と、母が初めて編んだものだ。添えられた父の手紙には、隆太さんがいつも楽しいことばかり報告してくれるが“本当はつらいことや大変なこともあるはず”と心配し、「頑張れ隆太!」と応援の言葉が綴られていた。隆太さんは「つらいこともあるけど、両親が頑張ってくれていると思うと、自分も頑張れる」と、涙をこぼす。