今回の配達先は“世界一幸せな国”として知られるブータン王国。その首都ティンプーの市役所に勤務する中島民樹さん(31)と、神戸市に住む父・広さん(63)、母・みさちさん(61)をつなぐ。ブータンに魅了され、“この国の役に立ちたい”と、そこで生きることを決意した民樹さん。両親は「ずっとブータンに住みたいと言い続け、着々と人生設計をしていた。そんなにしたいことなら…」と、息子の夢を見守っている。
ブータンは長らく鎖国状態にあり、ほんの10年余り前、テレビの解禁をきっかけに海外の情報が押し寄せ、人々の生活が大きく変った。のどかな農村だったティンプーには人々が集まり、今や空前の建設ラッシュ。そして大きな社会問題となっているのがゴミ問題だ。近代化によりプラスチックやビニールゴミが急増したが、人々は生ゴミを捨てていた昔と同じ感覚で、無造作に街なかに廃棄する。そんなゴミの収集を推進するのが民樹さんの仕事だ。
近年、日本やインドの援助で贈られた収集車でのゴミの回収が始まったが、今は住民が自分で収集車までゴミを運んでくるシステム。回収をもっとスムーズに行うためゴミ箱の設置による分別回収を推進しているが、まだまだ住民に清掃活動の意味を理解してもらえず、啓蒙活動に奔走する日々だ。「ブータン人はのんびりしている。彼らに合ったやり方でやるしかない」と民樹さんはいう。あまりにも急激に進んだ近代化と人々の意識とのギャップ。民樹さんはその溝を埋める地道な作業を続けながら、現在はゴミ収集ルートの改善や、バクテリアでゴミの分解を促進する新たなゴミ処分場の建設計画にも取り組む。
子供の頃から自宅裏の六甲山で、家族揃って山登りを楽しんでいた民樹さん。山好きが高じ、高校の時には山登りで訪れた旅行で初めてブータンの地を踏み、「親近感があってつながりを感じた」とすっかり魅了された。大学生の時には1ヶ月間ブータン人の家庭でホームステイを経験。「その家の人に“この国に住みたい”というと、まずは英語をしっかり勉強し、ブータンのために役立つ知識を身につけてから来るほうがいいと言われた」と民樹さん。その後ブータンで役立つ勉強をしようと森林学が学べるカナダへ留学。その間、何度もボランティアとしてブータンを訪れた。さらに海外青年協力隊でもブータンに赴任。任期を終える直前、その仕事ぶりと真面目な人柄を買われ、現在の上司に「市役所で働かないか」と声をかけられた。
国民のほとんどが仏教を信仰するブータン。民樹さんの部屋にも“仏間”があり、朝と夜は必ず祈りを捧げるという。「仏教はブータンの人々の生活の中心。僕も皆さんが幸せになるようお祈りし、人々のために尽くすことを誓っています」。自らブータンの人々の習慣を実践することで、周りの人たちに認められ、信頼されるようになったという。
ブータンを愛し、この国のために身も心も捧げてゴミ問題に立ち向かう民樹さんに、日本の両親から届けられたのは絵本「名馬キャリコ」。子供の頃、母が何度も読み聞かせてくれたもので、民樹さんが外で友達と遊んで泣いて返ってくると「これ読んで」とせがみ、読み終える頃にはまた元気に外へ飛び出して行ったという。添えられた母の手紙には「いくつになっても泣きたいときはある。そんな時は、この本に力をもらって外に飛んで出られたことを思いだして欲しい」と綴られていた。民樹さんは「両親の元に生まれて幸せです。したいことをさせてくれて感謝しています」と涙をこぼすのだった。