今回の配達先はブラジル・クリチーバ。子育てに奮闘するシングルマザーのシルバ千夏さん(33)と、日本に住む甲斐理香さん(32)ら5人の友人をつなぐ。
日本で日系ブラジル人の男性と結婚し、2人の子供をもうけた千夏さん。友人らとは“ブラジル人のパートナーを持つ女性の会”で知り合い、交流を深めていた。だが3年前、千夏さんは理想の子育て環境を求め、夫の故郷であるブラジルに移住。その後、夫との関係が悪化して離婚したが、千夏さんはブラジルに留まり、女手ひとつで子育てを続けることに決めた。友人らは「周りにちゃんと助けてくれる人がいるのか」「日本でも子育ては大変なのに、一人ではキツイと思う」と、千夏さんを心配している。
日本にいた頃は、子供同士が集まってもゲームに夢中で話もせず、それを母親たちが気にもしない日本で子育てをすることに疑問を感じたという千夏さん。現在はクリチーバにある長屋のような小さな家が建ち並ぶ一角に、6歳と5歳の2人の男の子を抱えて暮らしている。近所の無邪気な子供たちが毎日“遊ぼう”と誘いに来るブラジルは、子育てには理想の環境だという。だが、元夫からの養育費で家賃と光熱費はまかなえるものの、子育てを優先して自宅でアクセサリーを作る仕事を選んだ彼女の収入はわずかで、生活は苦しい。それでも「ブラジルで子育てをしようと決めて来た。離婚したからといって日本に帰る理由にならない」と、千夏さんの気持ちは揺るがない。
千夏さんには幼い頃の写真がない。千夏さんの手元には日本で仲の良かった友達と撮った写真があるだけだ。父子家庭に育ち、その父とも10代の時に死別。親戚の家に預けられて育った千夏さんには、家族で食卓を囲んだり、公園に連れて行ってもらったりという家族の思い出がまったくないのだ。「自分の子供たちにはそんな思いはさせたくない。私が育てたい。ずっと一緒にそばにいたい」と、千夏さんは全身全霊で子供たちと向き合う。
千夏さんは離婚後、家も仕事も失って困窮し、去年まで子供たちと貧民街に暮らしていた。「あの中に住んでいたときは本当にしんどかった」と千夏さんは振り返る。そんな貧しい母子家庭の一家を支えてくれたのは、同じ町に住む貧しい人たちだった。ブラジルには貧しくても困っている人に手を差し伸べる“助け合い精神”があり、千夏さんは何度も助けられてきたという。「私の帰る場所はクリチーバ。ブラジルで死にます」。千夏さんはこの地に骨を埋める覚悟だ。
そんな彼女に日本の友人たちから届けられたのは、彼女たちがブラジル人のパートナーや子供たちと撮ったたくさんの家族写真とメッセージ。“地球の裏側にいてもずっと千夏さんのことを思っている。私たちも家族なんだよ”、そんな思いが込められていた。千夏さんは懐かしい顔を眺めながら「嬉しい…みんなに会いたい。日本は恋しくないけど、友達は恋しい」と、涙をこぼす。