今回のお届け先は歴史的建造物を数多く有するポルトガルのリスボン。そんな価値ある建物や美術品を蘇らせる修復家として奮闘する太田めぐみさん(38)と、東京に住む父・順一さん(64)、母・幸代さん(64)をつなぐ。10年前、結婚を機にポルトガルに渡り、子育てに追われながら修復の仕事で家計を支える娘を、両親は「ちゃんと生活ができているのか…」と心配している。
現在、1500年代に造られた「カスカイス要塞」の大規模な修復作業に携わっているめぐみさん。金箔を貼り替えるための接着剤にはウサギの皮や骨を煮込んで作ったニカワが使われるなど、修復にはなるべく当時の素材をそのまま再現して用いているという。「歴史と身近に関わっていられるのが大きな魅力です」と、めぐみさんは修復の醍醐味を語る。
外交官だった父のもと海外で生まれ、世界を転々として育っためぐみさんは、訪れた国々の古い建物や美術品に触れるうち、いつしか“歴史的なものに携わりたい”という思いを抱くようになった。そして10年前、ポルトガルで通っていた小学校の同級生と20年ぶりにニューヨークで運命の再会を果たして結婚、ポルトガルへと嫁いだ。現在はそんなご主人・ギジェルモさん(37)と、幼い2人の子供の4人暮らし。ギジェルモさんはポルトガルでは名の知れたミュージシャンで、バンドのボーカルを担当し、作詞作曲もこなしている。だがここ7年ほどCDを出しておらず収入は不安定だ。家族の生活を支えるめぐみさんは「収入面が安定しないという不安はあるけど、彼にはすごく才能がある。音楽をやり続けて欲しい」と語る。
家庭では、魚の干物や納豆など何でも手作りしてしまうめぐみさん。「子供の頃、外国に滞在していた当時は日本の食材店がなかったので、母は色々工夫して日本食を作ってくれました。今自分がやってみて“大変だったろうな…”と思いますね」。母の影響で手芸も得意なめぐみさんは、たいていのものは自分で作れるという。幼い頃に母が作ってくれた布カバンは今でも大切にしている。
めぐみさんに転機が訪れたのは3年前。ある教会の天井画の修復に関わっていた親戚から声がかかった。その天井画は布を貼った上に描かれていたため、修復には使われている布の種類を見極める必要があり、手芸が得意で布に詳しそうなめぐみさんに相談を持ちかけてきたのだ。天井画を見たとたん“絶対にやりたい”と思っためぐみさんは、全く経験がないにも関わらず、「学ぶからやらせてほしい」と願い出て、修復の現場に飛び込んだ。「皆の足手まといになってはいけないと、何から何まで率先してやりました。必死でした」とめぐみさん。無我夢中で技術を習得し、たちまち修復家としての才能を開花させた。
それから3年。「将来はポルトガルだけでなく外国の歴史的なものにも関われるようになりたい。生活面は初めは不安でしたが、どうにかなるだろうと思っています。今は楽しいし、食べて行ければいいです」と、めぐみさんは前向きだ。そんな彼女が何よりも大切にしているのが家族と過ごす時間。「キューバにいた頃、治安が悪く、父は私たちに帰国するよう勧めたのですが、母は“家族は一緒にいるべき”と受入れなかった。やはり家族が一緒にいると、絆は深くなるような気がしますね」と、めぐみさんは語る。
そんなめぐみさんに届けられたのは4本のマフラー。母がめぐみさんの幼い頃を思い出しながら一針一針編んだものだ。“これからも家族4人、温かい家庭を築いていって欲しい…”、そんな願いが込められていた。マフラーを手にしためぐみさんは「今も日本の家族には甘えてばかりで…両親には感謝しています」と、しみじみと語るのだった。