今回の配達先は世界有数の競馬大国・オーストラリアのリッチモンド。この町の育成牧場(競馬用の馬を育てる牧場)で競走馬の調教ライダーとして働く佐藤太朗さん(30)と、大阪に住む父・順一さん(63)、母・由江さん(60)をつなぐ。中学時代に乗馬を始めた太朗さんは、競走馬の育成を志して3年前にオーストラリアへ。父は「怪我だけが心配。でも人生は一度きり。好きなことをすればいい」と見守っている。
太朗さんが働く牧場のオーナーはドバイの王様で、オーストラリアに数ある育成牧場の中でも特に巨額の資金が投入され、充実した設備をもち、超一流の馬を多く排出。1頭数千万円から1億円を超す高級馬86頭が管理されている。
毎朝、太朗さんは担当する馬の体調チェックや世話をしたあと、馬に乗って練習用コースへ。調教ライダーとは、調教師の指示通りに馬を走らせて効果的なトレーニングをさせる人のこと。まずはスローワークと呼ばれる走法で、馬を無理なくゆっくり走らせる。ライダーにとっても基本となる技術だが、中には馬に振り落とされるライダーもいる。その後、馬を乗り換えてファストワークという調教を行う。決められた距離を決められた時間で走らせるトレーニングで、「これは結構難しい。うちの調教師はタイムにシビアで、100mを75秒で乗って来いといわれたら76秒でも74秒でもダメなんです」。太朗さんはヘルメットに装着したメトロノームのリズムを頼りにスピードを細かく調整し、1秒の誤差なく走らせる。絶妙なスピード管理によってサラブレッドを一流のアスリートに調教していくのだ。
ファストワークを行うライダーは5人だが、この牧場に11人いる調教ライダーのうち、ファストワークを任されているのは太朗さんただ1人。あとは現役の一流ジョッキーに来てもらっているとう。だが言葉のハンデもあった太朗さんがファストワークの仕事を勝ち取るには大変な苦労があったという。「最初の2年間は調教師に信用してもらえず、何度もやめようと思った」と振り返る。毎日のスローワークで落馬しないなど小さなことを積み重ね、来る日も来る日もアピールを繰り返したという。「このポジションを手に入れた限り誰にも渡さへんし、“誰よりうまく乗ってやる”と思っている」と太朗さんは胸を張る。
そんな太朗さんには忘れられない出来事がある。中学生の時、父が経営する会社が倒産の危機に陥ったが、「何も知らなくて、プレミア付きのバスケットシューズをねだったんです。父は何も言わず3万円をくれました。当時大変だったことは後に知ったのですが、父はそれを子供たちに一切感じさせなかった。頭が上がらないですね。尊敬しています」と振り返る。そんな太朗さんの言葉に父は「泣かせるね。初めて聞きました。でも子供を育てるのは親の務め。できることはしてやりたかった」と当時の思いを明かす。
調教ライダーとして認められた今、次の目標は自分の考えで馬を育てて調教する「調教師」になること。自らの手腕で会社を切り盛りしてきた父のように、いつかは独立して自分の手でレースに勝つ馬を育てたいという。
そんな太朗さんに父から届けられたのは、太朗さんが小学生のときに家族で撮った写真。会社が苦しいときに父の支えとなったのが家族だったこと、そしてこの写真を父がいつも財布に入れていたことを聞かされた太朗さんは、感極まって涙をこぼす。さらに写真の裏に書かれた「苦あれば楽あり。頑張った分、最後は報われる」という父の言葉に、太朗さんは「深いですね。しんどい時も多いので、ぐっと来ます」と語るのだった。