今回の配達先はイタリア・シチリア島。今年、念願だったイタリア・プロフットサル最高峰リーグ・セリエA1のチームと契約した吉田輝さん(25)と、兵庫・西宮に住む父・一世さん(56)、母・千鶴さん(55)、祖父・岩雄さん(83)、祖母・葉子さん(81)をつなぐ。家族みんなが輝さんを後押しする中、共働きだった両親に代わって幼い頃から傍で輝さんの面倒をみてきた祖母は心配が絶えない。「好きな事を頑張るのも人生と思いますが…。かわいくて仕方がなかった孫ですから、イタリアへは心で泣きながら見送りました」と、祖母は輝さんが帰ってくる日を待ち望んでいる。
輝さんが所属するチーム「アウグスタFC」は昨年、セリエA1に所属する14チーム中11位と低迷。そんなチームの立て直しを図るため、攻撃力と得点力に秀でた輝さんがチーム唯一人の外国人選手としてスカウトされた。それだけにチームやファンの期待は大きい。
だが輝さんのチームは監督を始め、メンバー16人中13人がブラジル人で、プレー中に飛び交うポルトガル語がわからないことも多いという。実はブラジルはフットサルのワールドカップで4回の優勝を誇る強豪国。そのためセリエA1ではチーム力の強化を狙い、イタリア籍を持つブラジル人を数多くスカウトしている事情があるのだ。
そんな状況の中で奮闘する輝さんをしっかり家庭でサポートしてくれるのは、今年7月に結婚したばかりのイタリア人の妻・ガンディーナさん(25)。そして、毎日の食事や健康管理を気遣ってくれる妻の姿に、ふと思い出すのは祖母のこと。いつも輝さんの健康を心配し、栄養のあるものを食べさせようと気遣ってくれたことが、アスリートとしての土台を築いてくれたと、今も感謝しているという。
サッカーのコーチをしていた父のもとで、小学生の頃からサッカー漬けの日々を送っていた輝さんは、プロを夢見て17歳でイタリアへサッカー留学。その後、19歳の時にスカウトされてフットサル選手に転向し、一気にその才能を開花させた。2009年には日本代表に選ばれるまでになったが「トップのレベルには入れても、ここは頂点じゃない。通過点だと思っている」という輝さん。現在の目標は日本代表として来年のワールドカップに出場することだという。
地元での大事な開幕戦を迎えた。そんな目標に近づくためにも、とにかくシュートを決めて得点し、結果を残したい輝さん。応援するファンの期待に応えようと頑張るが、監督がポルトガル語で出す指示を正確に理解できない場面や、チームメートとのパスがうまくつながらない場面が続く。結局、思うように活躍できないままベンチに下がり、チームは完敗してしまった。そんな姿を見た父は、「せっかくイタリアに渡ったのに、わからないポルトガル語で指示を出されるなんて…息子がかわいそう。私も悔しい」と、気持ちは複雑だ。
輝さんは試合を離れたところでも、チーム内のコミュニケーションを少しでも深めるため、プライベートでブラジル人チームメートを食事に誘うなど努力を重ねている。日本を離れて7年。「おばあちゃんには“いつ帰ってくるの?”と聞かれますが…今は自分の夢を追いかけたい」。そう語る輝さんに祖母から届けられたのは手作りのふりかけ。幼い頃から食べていた思い出の味だ。“体に気をつけて頑張ってほしい”。そんな祖母の想いが込められたふりかけに、輝さんは「言葉が出ないですね。またおばあちゃんのおいしい料理が食べたいです」と、しみじみと語る。