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#16610月2日(日)10:25~放送
「イタリア/ピエトラカメラ村」

 今回の配達先はイタリア東部にある標高1000mの岩山の小さな村ピエトラカメラ村。7年前にジュエリー作家を目指してイタリアに渡り、この村でその一歩を踏み出した橋本あいさん(28)と、父・由雄さん(61)、母・真理さん(61)、祖母・つねこさん(90)をつなぐ。40年以上、陶芸家として生計を立ててきた父は、「独り立ちできる作家になってほしい」と、同じアーティストの道を歩み始めた娘を日本から見守っている。

 あいさんが人口50人ほどのこの小さな村でジュエリー制作を始めて2年。イタリア人の夫・マッシモさん(35)と共同作業で生み出すジュエリーは、手作りにこだわったアーティスティックな作品で、金属を溶かすところから最後の仕上げまで、全工程を手作業で行っている。すべてオーダーメードで、現在はインターネットや個展で作品を見たお客さんからオーダーを受け、制作しているという。

 幼い頃から父の工房を遊び場に育ったあいさん。「お父さん子でした。父が仕事をしているとき、工房の階段に座って見ているのが好きでした」。だが、いつしかスポーツに熱中し、工房を覗くこともなくなり、父は“アートに興味を無くしたのか”と残念がった。ところが、どういうわけか高校卒業後は美大へ進学。在学中にジュエリー制作に興味を抱き、さらに深く学ぶためにイタリアへ留学した。その修業中にジュエリー作りの先輩だったマッシモさんと出会い、結婚。あるとき、山登りが好きだったマッシモさんに連れられてこの村を訪れ、12世紀まで起源をさかのぼる歴史と自然を身近に感じられるところに魅了されたあいさん。作品作りにも最高の環境と考え、2年前に2人で移り住んだ。

 だがジュエリー作家としての収入は、まだ安定しないのが現状。そのため、観光シーズンにはあいさんは麓の店で働き、マッシモさんも山小屋でアルバイトをして家計の足しにしているという。「今は主に知人や近所の人にオーダーをもらっている状態。少しずつここで作り続けて、これからは日本やイタリアのほかの地域の人にも作品を見てもらえるようになれば…」と、あいさんの夢は広がる。

 日本の家族とは遠く離れているが、あいさんはいつも父からメッセージを受け取っているという。「父のブログは、私たちが見ているのをわかって書いているので、そこでアドバイスをしてくれているんだと感じます。父が常に言い続けているのは“一番大切なのは長く続けること”。父も若い頃から陶芸をしてきたので、私もそうやって続けていきたい」。あいさんにとって、同じアーティストである父の存在は大きいようだ。

 そんな父から届けられたのは、彼女が小学5年生のときに書いた絵日記。1年かけて書き溜めたものを、学校の授業で絵巻物にしたもので、当時のあいさんが日々見たもの、感じたことが生き生きと描かれている。娘が同じアートの世界を目指すことを密かに願ってきた父は、“いつか娘がアーティストになったとき、この作品が役に立つかもしれない”と思い、大切に保管していたのだ。添えられた手紙には「この絵巻物には、あいが小学5年生のときのファンタジーが詰まっています。ジュエリー制作に行き詰ったときや迷ったときは、これが勇気を与えてくれることでしょう」と綴られていた。そんな父の言葉、そして両親の想いに、あいさんは「2人が私の父と母でよかった…」と感謝の気持ちを語る。