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#119「アメリカ/ニューオリンズ」 9月12日(日) 午前10:25〜10:55


 今回のお届け先はアメリカ・ルイジアナ州ニューオリンズ。100軒以上のバーやクラブが軒を連ねるアメリカ随一の歓楽街・バーボンストリートで、クラブ専属のギタリストとして活動する松村敬史さん(30)と、京都市に住む母・文子さん(57)をつなぐ。8年前に単身アメリカに渡った敬史さん。母は「あの子にはギターしかなかった。好きなことをやれるのならいいんじゃないかと思って…」と、送り出した当時の想いを振り返る。

 敬史さんがギターと出会ったのは小学生の時。母に勧められたのがきっかけだった。中でも特にハマったのがブルース。中学生の頃には大人のバンドに混ざり、クラブハウスで演奏するようになっていた。「でも日本でブルースをやっていても、それは"仮想"でしかなかった。本場のブルースを見てみたいという思いは強かった」と敬史さん。そして8年前、その想いだけを胸に、ギターを抱えて何のつてもないアメリカへ。現在はバーボンストリートにあるクラブ「FUNKY544」専属バンドのギタリストとして活動している。その腕を買われて、他のバンドの助っ人として呼ばれることも多いという。

 敬史さんのバンドのメンバーは皆、世界的な有名ミュージシャンたちと演奏を重ねてきたベテランばかり。そんな中で敬史さんは、若手でありながらメンバーから高く評価されている。バンドが演奏するのは「TOP40」と呼ばれる往年のヒット曲をアレンジしたナンバー。ジャンルにこだわらずR&B、ジャズ、ブルースなど、夜8時から夜中1時まで弾き続ける。「その日の客層を見て、その場で演奏する曲を決める。音楽が良くなかったら、ほかの店にお客を取られてしまいますから。自分の予想が当たってお客がいっぱい入ってくれたら嬉しいし、そんな手応えを生で感じられるから、やめられない」と、クラブで演奏する魅力を語る。

 敬史さんがこの地にやって来たばかりの頃、その才能にいち早く気づき、自らのバンドに引き入れ、本場の音楽を叩き込んでくれた恩師がいる。バーボンストリートで40年間活躍する大御所サックスプレーヤー、ゲイリー・ブラウンさんだ。バンドを離れた今でも交流を続ける2人は、バーボンストリートの未来にある危機感を抱いている。それは5年前にニューオリンズを襲ったハリケーンがもたらした悲劇。そのとき多くのミュージシャンが命を落とし、壊滅的な被害を受けたこの地からも去ってしまった。「ここの音楽は変ってしまった。本物が減り、質も下がった。何とかしたい…。それが、私がここにいる理由です」と敬史さん。ゲイリーさんの意志を受け継ぐ数少ない若手ミュージシャンとして、本物のニューオリンズ音楽を守りたいという想いが、敬史さんには強くあるのだ。

 365日眠らない町・バーボンストリート。演奏に穴をあければ、いつクビになるかわからない。敬史さんが、もう何年も帰国できないのは、そんな理由があるからだ。「孝行息子じゃなくて母には申し訳ないと思っている」。敬史さんはそう母への想いを明かす。

 そんな敬史さんに母から届けられたのは、敬史さんが大切にしていたハーモニカケース。昔、路上で演奏していた時に使っていたものだという。中には、母が選んだ真新しいブルースハープのセットが並んでいた。「ありがたい」と敬史さんは大感激する。昔から敬史さんの吹くハーモニカの音が大好きだったという母。これからもアメリカで生きていくであろう息子へ、精一杯の想いを込めたプレゼントだった。そんな母の想いを噛みしめながら、敬史さんは母のためにそのハーモニカで見事な演奏をする。