みどころ
南米コロンビアについて
コロンビア共和国と聞いてみなさまは何を思い起こすでしょうか?
通称コロンビアは、南アメリカ北西部に位置する共和制国家で、東にベネズエラ、南東にブラジル、南にペルー、南西にエクアドル、北西にパナマと隣り合っていて、北はカリブ海、西は太平洋に面しています。南アメリカ大陸で唯一、太平洋と大西洋の2つの大洋に面した国です。
多様な環境と文化、民族を持つ国で、さまざまな人々が生活しています。
コロンビアの人口は、ブラジル、メキシコに続いて、ラテンアメリカで第3位。世界的なコーヒー豆の産地として知られるほか、エメラルドの産出量は世界一、温暖な気候と豊富な日射量を活かしたバラ、カーネーションなどの栽培と切り花の輸出も有名です。
国名は直接的にはアメリカ大陸の発見者コロンブスに由来し、「コロンの土地」を意味していると言われています。また、「Colombus」はラテン語で「鳩」も意味するものです。
様々な文化を受け入れ、寛容で優しい印象のコロンビアですが、様々な考え方がぶつかりあった歴史があるのも事実です。2016年にノーベル平和賞を当時大統領が受賞し、平和の道を歩んでいる現在のコロンビア。偶然にもラテン語で平和の象徴である鳩を意味する国名に、これからの輝きを感じます。
突き抜ける青い空、青い海、色とりどりの花々に鮮やかな緑。「一度目にしたら忘れられない鮮やかな絵画」を描くフェルナンド・ボテロは"最もコロンビア人らしい芸術家"と呼ばれています。
フェルナンド・ボテロについて
ボテロに注目が集まったのは1963年、ニューヨークのメトロポリタン美術館でレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》が展覧されたとき、モダンアートの殿堂、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のエントランス・ホールにボテロの《12歳のモナ・リザ》(本展には出展されません)が展示されたことに始まります。その後、欧米で高く評価され、今日では現代を代表する美術家のひとりに数えられています。
本展は油彩、水彩、素描など全70点の絵画作品で構成されますが、1970年代から本格的に制作を開始したボリュームのある彫刻も有名です。あらゆる対象をふくよかに表現するボテロの作品には、不思議な感覚が漂い、観る者を惹きつける魅力にあふれています。
作品紹介
第1章 初期作品
ボテロは20歳であった1952年、コロンビア国内の展覧会で受賞した賞金でヨーロッパに渡り、そこで3年間学びます。特にイタリアでは、クワトロチェント(1400年代)の名画、そしてバーナード・ベレンソンやロベルト・ロンギといった当時の偉大な理論家たちの著述との出会いを通じ、自らの絵画の理論的基盤を形成し、発展させました。ボテロのボリュームへの関心は17歳の時の作品《泣く女》(1949年)にすでに見出せますが、イタリアでの修行はそれを自覚的で継続的なものとしたといえるでしょう。
第2章 静物
1956年のある晩、ボテロはアトリエでマンドリンを描いていました。マンドリンの穴をとても小さく描くと、大きな輪郭と細部とのコントラストが生じ、楽器がふくらんで見えました。この時、彼は自分の仕事にとって、重要で決定的なことが起こったと感じたのです。
ボテロの様式は、かたちの官能性とボリュームの強調にあります。「ボリュームを通して、生命の高揚感が生み出されるが、デフォルメにより芸術には不均衡が生じる。それは再構築されなければならないが、一貫した様式によってのみ、デフォルメは自然となる」と、ボテロは言います。静物画はボテロが繰り返し描くテーマの一つですが、彼の様式は、これを通してこそ生まれて来るものといえるでしょう。
第3章 信仰の世界
ボテロの全ての作品においては、青年時代の記憶が創作活動の主題となっています。宗教的なテーマへの関心は、聖職者の世界とそこにあるかたち、色彩、衣装、そしてその造形的で詩的な側面を絵画的に探究するためのものであり、ボテロはユーモアと風刺をもって人物にアプローチしています。司教、修道女、司祭、枢機卿は1930年代から40年代のボテロの故郷メデジンでは突出した地位にあり、彼らを描くことで作品には、ある種の懐かしさとともに風刺とユーモアがあふれてくるのです。こうした作品は、ときに予想外で驚きに満ち、起こりそうもない世界を表現してもいます。
第4章 ラテンアメリカの世界
1956年、23歳のボテロはメキシコ芸術に出会いますが、このことは一つのターニングポイントとなります。自らのルーツや故郷コロンビアでの子ども時代の記憶にまなざしを向け、自作の中心的テーマとするようになったのです。同時にメキシコ芸術の大胆な色使いもボテロを触発し、彼の画面を色鮮やかなものへと変容させました。 近年ボテロは大型カンヴァスに水彩で彩色したドローイングを描くシリーズを制作していますが、そこでもラテンアメリカの世界は主題として生き生きと描写されています。
第5章 サーカス
2006年、ボテロはメキシコ南部の都市シワタネホの訪問中、ラテンアメリカの趣のある質素なサーカスに出会いました。悲しみを内に秘めた人物だけではなく、何よりもその計り知れない詩的な味わいやかたちと色の造形性が、彼を驚かせました。この出会いは、ピカソ、マティス、ルノワールをはじめとする巨匠たちの作品によって高められた、サーカスという大きな可能性を秘めるテーマへと彼の想像力の扉を開きます。サーカスの役者たちは、盛んに動いているにもかかわらずボテロ作品の人物に典型的な静けさと美学をも湛え、ダイナミックさと静寂の間を揺れる逆説的な感覚を伝えています。
第6章 変容する名画
1952年に初めて欧州へ渡航して以来、ボテロは、ベラスケス、ピエロ・デラ・フランチェスカ、ヤン・ファン・エイク、アングルなど、美術史における主要な芸術家たちへ造形的なオマージュを数多く捧げてきました。過去の巨匠たちの名作を基にした一連の作品では、ボテロ独自の様式により他の芸術家たちの作品を全く異なるものへと変容させています。「芸術とは、同じことであっても、異なる方法で表す可能性である」というボテロの言葉を、強く思い起こさせるシリーズです。
左が26年前に来日した「モナ・リザ」。右が今回世界初公開の「モナ・リザの横顔」です。